いい匂いなのに咳やめまいがする…潜在患者数1000万人の化学物質過敏症の症状例とは? 気づかぬうちに重症化しているケースも…
外来受診された患者さんの症状例
化学物質過敏症は、重症気管支喘息、薬剤アレルギー、食物アレルギーといった重症アレルギーと誤診されやすい疾患であることは触れました。 そうした意味からも、アレルギー疾患を専門とするアレルギー科医が化学物質過敏症に精通することが、誤診や診断遅延、過剰治療を回避し、化学物質過敏症であると適切に診断をくだすために重要であると考えています。 とは言っても、アレルギー科医はオールマイティではありません。化学物質過敏症の多岐にわたる症状すべてを診られるわけではなく、アレルギー科以外の専門の診療科との連携は不可避です。 そこで、アレルギー科を中心として、内科(大人を診ることが多い呼吸器内科医が主体)、小児科、皮膚科、耳鼻科、眼科で実際に外来受診され、最終的に化学物質過敏症の診断に至った症状は具体的にどうであったか、何に一番困っていたのか、外来患者さん像と言えるものを紹介しましょう。 症例はケースバイケースで、すべての患者さんに共通して同様の結果を示すものではありませんが、その中に少しでも思いあたることがあれば、「もしかしたら私も、化学物質過敏症の疑いがあるのではないか」と認識しやすくなるかもしれません。
アレルギー科を受診した患者さんの症例
アレルギー科を外来受診されて化学物質過敏症と診断された患者さんの症例です。 〈ケース1〉30代女性食物アレルギーの疑い リンゴ、メロン、イチゴなどを摂取すると口腔内がかゆくなる、イガイガする、清涼飲料水を摂取すると腹痛やめまいがする、市販のお弁当を食べると口の中に血豆ができるという症状があり、受診されました。 これだけであれば、アレルギー科医は食物アレルギーを疑います。リンゴやメロン、イチゴを食べると口の中がイガイガする場合は、花粉食物アレルギー症候群による口腔アレルギー症候群の疑いありです。 これは、花粉アレルギーの人が、似たようなタンパク質を持つ果物や野菜に対してアレルギー反応を起こしてしまう疾患です。 清涼飲料水で症状が出るとなると、エリスリトールと呼ばれる天然の糖アルコールによるアレルギー反応ではないかと考えます。 エリスリトールは、メロン、ナシ、ブドウなどの果実や発酵食品に含まれていて、天然の甘味料として清涼飲料水や菓子類などに添加されています。赤い清涼飲料水であれば、赤色のコチニール色素によるアレルギー反応ではないかと考えられます。 詳しく検査しても、この患者さんはいずれの食物アレルギーにもあてはまりませんでした。さらに話をうかがうと、匂いにとても敏感で、香水や柔軟剤の匂いの強い人が近くにいると、めまいがしたり息苦しくなったりするとのことでした。 結果、嗅覚過敏が要因と見られることから、化学物質過敏症と診断されました。 〈ケース2〉40代女性薬剤アレルギーの疑い 自宅の近くのクリニックで抗菌薬(抗生剤)を処方され、自宅に戻って服用すると、飲んでから15分程度で、めまいや吐き気の症状が出ました。 薬剤アレルギーの疑いで受診され、さらに問診を続けると、抗菌薬だけではなく、胃酸を抑える薬(制酸剤)や痰を出しやすくする去痰薬を飲んだ時にも、同じような症状が出たということです。 ある系統の抗菌薬だけにアレルギーが起こることはありますが、抗菌薬もダメ、胃薬もダメ、痰の薬もダメといった薬剤アレルギーは原則考えられません。 負荷試験として、症状が誘発された抗菌薬を再度少量から服用してもらいましたが、症状は何も出ませんでした。 この患者さんの場合も、嗅覚が敏感で、香りの強い洗剤や漂白剤を使用しないようにしているとのことでしたので、嗅覚過敏が要因と見られる化学物質過敏症と診断されました。 図/書籍『化学物質過敏症とは何か』より 写真/Shutterstock *1 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編『高血圧治療ガイドライン2019』特定非営利活動法人日本高血圧学会、2019年 *2 Watai K, Fukutomi Y, Taniguchi M, et al.: Epidemiological association between multiple chemical sensitivity and birth by caesarean section : a nationwide case-control study. Environ Health 17(1):89, 2018. *3 Kreutzer R, Neutra RR, Lashuay N : Prevalence of people reporting sensitivities to chemicals in a population-based survey.Am J Epidemiol. 150(1):1-12, 1999. *4 小倉英郎「化学物質過敏症小児の現状とその対応」『アレルギーの臨床』12月臨時増刊号、第41巻第14号(28-31)、北隆館、2021年
---------- 渡井健太郎(わたい けんたろう) 2010年、熊本大学医学部卒業、順天堂大学大学院にて医学博士取得。国立病院機構相模原病院アレルギー・呼吸器科に勤務後、アレルギー科医長を経て2022年より現職。相模原病院臨床研究センター客員研究員を兼務。日本アレルギー学会アレルギー専門医、日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医。 ----------
渡井健太郎