なんと芭蕉ファン!伝説的なスペイン人映画監督の新作「瞳を閉じて」が日本で公開
「ミツバチのささやき」で知られる伝説的なスペイン人映画監督ビクトル・エリセによる新作映画「瞳をとじて」が2月9日から日本各地の映画館で公開される。寡作で知られるエリセ監督の長編映画は31年ぶり。俳人松尾芭蕉と「奥の細道」の大ファンで、日本との関わりが深い巨匠の新作は日本で注目を集めそうだ。 公開をまえにしてこのほど、東京都千代田区のスペイン政府機関セルバンテス文化センターで「瞳をとじて」の魅力を語る座談会が開かれた。司会したのは同文化センター文化部長のハビエル・フェルナンデスさんで、スペイン語圏の映画に詳しい東京大学の柳原孝敦教授と映画ライターの久保玲子さんが、エリセ監督との思い出や人柄などを話し合った。 フェルナンデスさんがまず「エリセ監督の新作がやっと日本に着きました」と話した。 「ミツバチのささやき」(1973年)が日本の映画ファンの間で好評を集めたのは1985年。同年には「エル・スール」(1982年)も日本公開された。そして長編第三作「マルメロの陽光」の製作は1992年。その後、今回の「瞳を閉じて」が2023年に完成するまでに31年が経過した。
久保さんが、「エリセ監督は松尾芭蕉が好きで『奥の細道』を愛読しているそうですね」と言うと、柳原教授は「1993年にエリセ監督が来日した時、彼が『奥の細道』スペイン語翻訳書を持っているのを見た」と証言した。当時大学院生だった柳原教授は、エリセ監督の通訳を務めていた。『奥の細道』はボロボロで、相当読み込まれていたという。 エリセ監督が「ミツバチのささやき」を製作していた頃、頭の中で芭蕉の辞世の句〈旅に病んで夢は枯野をかけめぐる〉をつぶやき続けていたというのは「伝説」となっている。 フェルナンデスさんが「エリセ監督は、よくしゃべるスペイン人よりも、言葉数が少ない日本人のようだ」と言うと、柳原教授は「よく考えてから言葉を発する方でした」と回想した。 「瞳を閉じて」は、元映画監督と、謎の失踪を遂げたかつての人気俳優の記憶をめぐるヒューマンミステリー。22年前、映画の撮影中に俳優が失踪する。当時の映画監督でフリオの親友でもあったミゲルは、失踪事件を追うテレビ番組に証言者として出演。ミゲルは次第にフリオと過ごした青春時代や自身の半生を追想していく。 「映画を作る」ことや「映画を見せる」ことなど、映画愛も大きなテーマとなっている。エリセ監督の集大成ともいえる新作。そこに過去の名作とどんなつながりが見てとれるか、また、どんなところに日本文化の影響が現れているか。興味は尽きない。