【エルデンリングDLC】『SHADOW OF THE ERDTREE』宮崎英高ディレクターの国内メディア独占インタビュー。過去最大規模のDLCで描かれる“影の地”の物語、その詳細が明らかに!
編集:コンタカオ 2022年2月25日にフロム・ソフトウェアより発売された『ELDEN RING』(エルデンリング)。 【記事の画像(13枚)】を見る “褪せ人”となり、エルデの王となるべく“狭間の地”を冒険するアクションRPGである本作は、さまざまな魅力に満ち溢れている。広大なオープンフィールドで構成された、豊潤な世界。緻密に構成された、起伏のあるダンジョン。多彩な武器種や魔術・祈祷、騎乗やジャンプといったアクションを駆使してくり広げられる戦闘……。 『DARK SOULS』(ダークソウル)シリーズなどで培われてきた、脅威と未知に満ちた世界、自由な冒険と手に汗握る戦闘、勝利への達成感を最大規模のボリュームで表現した『エルデンリング』は、発売されてから1年で世界累計出荷本数が2000万本以上となる大ヒットを記録しただけでなく、世界主要4大ゲームアワード(Golden Joystick Award、The Game Awards、D.I.C.E. Awards、Game Developers Choice Awards)でゲーム・オブ・ザ・イヤーを獲得するなど、高評価を獲得した。 そんな『エルデンリング』のダウンロードコンテンツとなる『SHADOW OF THE ERDTREE』の開発が明らかになったのは、2023年2月28日。タイトルと1点のアートが公開されたが、その後は続報がないまま、1年が経った。 しかし、2024年2月21日、フロム・ソフトウェア公式Xにて『SHADOW OF THE ERDTREE』のトレーラーが公開されることが突如、発表された。 そして、2024年2月22日を迎えると同時に、全世界のファンが待ちに待っていた瞬間が訪れた。ついに『SHADOW OF THE ERDTREE』のトレーラーとともに、その発売日が2024年6月21日となることが明らかになったのだ。 新たな舞台で描かれる、“褪せ人”の新たな物語。そして、新たな冒険を彩る新たな要素。その詳細を、『エルデンリング』のディレクターである宮崎英高氏に訊いた。国内メディアでは独占となるこのインタビューから、『SHADOW OF THE ERDTREE』の一端を感じ取っていただきたい。 ――2022年2月25日に『エルデンリング』が発売されてから1年で世界累計出荷本数が2000万本以上となる大ヒットを記録しただけでなく、さまざまなゲームアワードでゲーム・オブ・ザ・イヤーを受賞するなど、各所で高評価も獲得しました。もちろんユーザーからもこれだけの人気を博したことについて、あらためてお気持ちをお聞かせください。 宮崎 単純で申し訳ないのですが、とてもうれしいです。 我々としては、まず我々がおもしろい、価値があると思えるようなゲームを作っているつもりなので、そうしたものを楽しんでくれて、価値を感じてくださる方が世界にここまで多くいてくださったという事実に、大きな喜びを感じましたし、とても勇気づけられました。 『エルデンリング』でも“困難を克服する達成感”というテーマは、我々の過去作から変えていないのですが、そうしたテーマを、高い自由度でより多くの方に親しみやすいものにしよう、というコンセプトを立てました。オープンなフィールドの採用などもその一環だったわけですが、そうしたこともうまく作用したのだと思います。 ――日本国内だけでも100万本を超えるセールスとなりました。 宮崎 はい。その点も大きな驚きであり、喜びでした。仕事ではなく、日常で接する方から『エルデンリング』の名前を聞く機会も何度かあり、「100万本売れるってすごいんだな」と感じたことを覚えています。 遊んでくださったユーザーさんには、本当に感謝しています。 ――宮崎さんご自身が考えるユーザーにもたらしたい体験を、しっかりとゲームに落とし込むという前提が開発にあったとうかがいました。それが多くのユーザーに響いたということだと思います。 宮崎 そうですね。ディレクターとして、ゲームを通じてユーザーさんに味わってほしい体験、感じてほしい価値や感情などは、ゲーム開発の芯になります。「私なら、ここではこうして殺されたいんだ!」といったことを含めて(笑)。 ただ、それがすべてはありません。私の意見が絶対ではありませんし、問題がある、あるいはよりよいやりかたがあると思えばスタッフは率直に意見を言ってくれますし、それに納得し、受け容れることも多くあります。 『エルデンリング』に限った話ではありませんが、それが皆で何かを作ることの利点であり、楽しみであると思っています。 ――その結果、極限までバランスを調整するようなゲーム作りになっていると思いますが、それがフロム・ソフトウェアのゲームの根本にある魅力につながっています。ユーザーの体験という意味では、『エルデンリング』も物語や設定が断片的に語られることで、プレイヤー間による世界観の考察がくり広げられていますね。 宮崎 『エルデンリング』を含めて、私が断片的な語りかたを採用する理由はいくつかあります。 まず、ゲームプレイ体験そのものがユーザーさんの物語になってほしい、ということです。そのために、強固な物語を饒舌に語ることはしていません。 つぎに、物語にユーザーさんの想像の余地を残しておきたい、ということです。それは、先ほどの「ゲームプレイ体験そのものが、ユーザーさんの物語になる」ことにもつながりますし、単純に、余白を想像して思い耽るといったことがとても楽しいと思うからです。 断片を集め、理解する楽しみもありますね。「あ、そういうことか。つながった」というようなことです。 そうした諸々の意図があるので、ユーザーさんに考察していただけるのは、とてもうれしいです。私自身も、そうした考察を興味深く読ませていただくことがあります。 ――2023年2月28日に発表された『SHADOW OF THE ERDTREE』ですが、1年の時を経てついに発売日が公開されました。まずお聞きしたいのは、いつごろから開発を進めていたのか、ということです。 宮崎 DLCの開発を何となくイメージし始めたのは、本編開発の終盤だったかと思います。 『エルデンリング』全体の構想の中で、明らかに本編には含めることができない部分が出てきてしまい、そうしたものをDLCという形で世に出せたらいいな、と考えていました。 ただ、そのころはまだ本当にイメージだけで、本編の開発に集中していました。実際にDLCの開発が開始されたのは、本編発売後、アップデートなどがある程度落ち着いた後のことです。 ――タイトルを聞いてまっさきに気になったのは“SHADOW OF THE ERDTREE”というサブタイトルの意味です。 宮崎 “ERDTREE”というのは、本編に登場する“黄金樹”のことです。なので、DLCのサブタイトルを直訳すると“黄金樹の影”となります。 2023年2月に発表されたコンセプトアートで、左奥のほうに聳(そび)えているのがその黄金樹の影でして、“影樹”とも呼ばれます。DLCの舞台となるのは、黄金樹に象徴される“狭間の地”ではなく、影樹に象徴される“影の地”である、ということですね。 あと、サブタイトルにはもう少し隠された意味もあるのですが、そちらはぜひ実際のゲームプレイで感じてもらえれば、と思います。 ――アートに関連してもうひとつ、トレントに乗っている人物は、本編でもその存在が語られるデミゴッドのひとり“聖樹のミケラ”ですか? 宮崎 はい、そうです。今回のDLCで描かれる物語の主軸となるのは、ミケラです。 覚えてもらえているか不安ですが、本編の物語は、祝福の導きに従うことがシンプルな導線になっていました。それが今回は、影の地に向かったミケラの足跡を追う、といったものになります。 あと、ミケラの足跡を追うNPCたちも登場します。彼らがDLCの物語の語り部となり、また主人公と関わり、時には友となり、敵になっていくわけです。 そして、DLCの物語のもうひとつの主軸が、影の地の過去、そして女王マリカの過去、ということになります。 ――今回はたくさんの情報が明らかになったので、いろいろとお聞かせください。先ほど「女王マリカの過去が語られる」とおっしゃっていましたが、DLCの時間軸は過去になるのでしょうか? 宮崎 いいえ。時間軸としては本編と同じになります。遠い過去、あるいは未来が舞台ではありません。 影の地、そして女王マリカの過去は、本編であれば破砕戦争の歴史と同じように語られるかと思います。 ――宮崎さんが『SHADOW OF THE ERDTREE』で描こうとしているテーマは何でしょうか? 宮崎 うーん、それは答えにくいですね。それこそ正に、ユーザーさんに体験してほしいもののひとつですし、ここで何を語っても野暮になるかと思います。 ――『エルデンリング』本編では英雄譚が描かれていましたが、その点はDLCでも変わらないのでしょうか。 宮崎 はい。英雄譚というテーマは変わりません。 キーアートに描かれているキャラクターの“メスメル”がわかりやすいと思うのですが、彼もまた英雄のひとりです。 メスメルが座っている椅子は、本編で“忌み王、モーゴット”との戦いの舞台にあった椅子と同じもので、彼もまたゴドリックやマレニア、ラダーン、ライカードなどと同格の存在であり、“マリカの子”とも呼ばれています。 ――DLCの物語を描くにあたって、ジョージ・R.R・マーティン氏も関わっているのでしょうか? 宮崎 マーティン氏の関わりかたは、本編と変わりません。 DLCの世界と物語は、本編のそれと同じく、彼が執筆してくれた神話から刺激を受け、構築されたものです。より正確に言えば、本編制作時に彼の神話から刺激を受け、構築されたものの一部が今回のDLCです。 ですから、DLC単体に向けて何らかの追加執筆があったということはありません。 ――気になるのは、本DLCのボリュームです。『DARK SOULS III』や『Bloodborne』では本編から1年くらいで発売されていたので、今回は相当に期待してしまうのですが……(笑)。 宮崎 そうですね。お待たせしてしまったことは、申し訳ありませんでした。 ただDLCのボリュームについて言えば、『DARK SOULS』シリーズや『Bloodborne』などのDLCと比較して、それよりも明確に大きなものです。DLCとして、我々にとって過去最大のものになるのは間違いないと思います。 ――それは期待以上ですね! なぜそこまで膨大なボリュームになったのでしょうか? 宮崎 DLCでも『エルデンリング』らしい体験を、と考えたとき、現状のボリュームは必要に感じたのです。 克服すべき脅威はあるとして、それに挑む自由度があり、未知を探索するワクワク感があり、探索の先には発見と出会いがあるといった、『エルデンリング』らしい冒険感ですね。 ――あのワクワク感を、もう一度味わえるんですね。DLCで登場するフィールドはどのようなものになるのでしょうか? 宮崎 本編のフィールドとは異なる、新しいものを用意しています。 オープンなフィールドはもちろん、レガシーダンジョンや、より小規模なダンジョンも含まれています。それは、本編のリムグレイブよりも大きく、多様なものです。 ――そのエリアにはどのようにアクセスするのでしょうか? 宮崎 本編のフィールドから地続きではなく、転送により向かうことになります。 その入り口は“血の君主、モーグ”との戦いの舞台にあった、大きな割れた繭、あるいはそこから垂れる枯れた腕です。 また、今回のDLCのフィールドに向かうためには“血の君主、モーグ”と“星砕きのラダーン”を倒している必要があります。 ――本編の後半から遊べるということは、難度もそれなりに高くなるのでしょうか? 宮崎 そうですね。パラメータ的な難易度は、本編の後半に準拠するかと思います。 基本的に、難易度に対するアプローチは、本編から変えていません。脅威に挑む自由度がある、という点でもそうですし、本編で言うマレニア的な、物語上は倒す必要のない、歯応えのあるボスも存在します。 ――本編のフィールドとDLCのフィールドを行き来することは可能でしょうか? 宮崎 はい、可能です。先ほどもお答えした通り、本編とDLCのフィールドは地続きではありませんので、その行き来は転送によるものですが、自由に行うことができます。 ――細かい部分ですが、ファストトラベルはどのような流れになるのでしょうか? 宮崎 こちらも本編と同じです。“祝福”を発見すれば、そこに転送を行うことができるようになります。 ――DLCの進行で、本編のエンディングに影響が出るようなことは? 宮崎 いいえ、そういったことはありませんし、本編でのイベント進行がDLCの内容を変化させることもありません。 DLCの物語は、DLCの中で完結すると思ってもらって大丈夫です。 ――DLCならではの新要素はありますか? 宮崎 システムとしては、DLC限定のレベルアップ要素が追加されています。 『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』の“攻め力”のようなものを想像してもらえるとわかりやすいと思いますが、従来のレベルとは別に、DLCのフィールドでのみ有効になる“攻め力”があるわけです。 これは、先ほどから言っている「脅威に挑む自由度」のために用意したもので、「このボスは手強いから、別のところを探索して、強くなってから再挑戦しよう」といったことを、高レベル帯でも体験しやすくするものです。 一方では、“攻め力”を上げることを抑えることで、あえて低いレベルで脅威に挑む、といった体験もできるようになります。 ――追加される武器や魔術・祈祷はありますか? 宮崎 はい。武器や魔法、戦技などは多く追加されます。今回のDLCの売りのひとつですね。 とくに武器については、新しい武器種が8つ追加されます。もちろん、既存の武器種への追加もあります。 ――8つも……ですか!? 本編でも相当な数の武器がありますが、DLCでは具体的にどのような武器が追加されるのでしょうか? 宮崎 まず、比較的王道に近い、大型の日本刀である大刀や、逆手剣といった方向性があり、より特徴的な、新規性の高い方向性も用意しています。 たとえば、いわゆるモンクをイメージした、“格闘”であったり、攻防一体の“デュエリング・シールド”のようなものですね。すべての攻撃が投擲となる、投擲短剣などもあったりします。 本編の武器種をひと通り使っていただいた方にも、また新鮮に楽しんでもらえるかと思います。 ――今回の発表で公開されたトレーラーでは、武器にも注目したいですね。また、トレーラーには獅子舞のような、見たことのない敵が登場していましたが、あれはDLCのボスでしょうか? 宮崎 はい。あの獅子舞は、ある意味でDLCらしいボスですね。 じつは影の地は、マリカが神となり、黄金樹が生まれた地なのです。当然そこには黄金樹以前の文化といったものがあり、あの獅子舞はその文化に由来するキャラです。 なので、本編とはまた少し違う、異文化の匂いを感じてもらえればと思います。 ――新たなアートに描かれている背景では、空にヴェールのようなものが描かれています。 宮崎 はい。DLCの舞台である影の地は、本編の舞台となる狭間の地から隔絶しています。それは、外部から切り離され、隠されているといったイメージで、あのヴェールはその象徴でもあります。 ――謎は深まるばかりですが、新たな出会いが楽しみになりますね。気が早い質問ですが、DLCエリアをクリアーすると専用のエンディングを見られるのでしょうか? 宮崎 単体のエンディングというか、エンドクレジットが流れるようなものはありません。 ただ、DLCのクリアーは明確になるよう調整されていますし、それを感じるための、ちょっとした演出も用意されています。 ――本DLCの配信後、さらに『エルデンリング』の世界を広げるようなDLCなどのコンテンツが作られることはありますか? 宮崎 いいえ。いまのところ、今回の後に別のDLCを計画している、といったことはありません。『エルデンリング』本編に追加されるDLCということでは、今回が大きな区切りになると思います。 ただ、それは『エルデンリング』のすべてが完結したのだ、ということではありません。『DARK SOULS III』のときも同じ話をしたかもしれませんが、将来における可能性を閉ざしてしまうような断言はしたくないのです。 ――DLC単体だけではなく、『エルデンリング』本編とDLCを含めた同梱版の発売も決まりました。 宮崎 はい。これを機会に、『エルデンリング』を初めてプレイする方がいてくださったら、とてもうれしいですね。 先ほどもお話しした通り、DLCのフィールドに向かうためには、本編をある程度進めている必要があるので、DLC発売前に本編を攻略してもらうのもありかと思います。 ――まだDLCの発売前ではありますが、ここでいったんの区切りがつくということで、現時点で『エルデンリング』そのものを振り返ってみると、どのような心境になりますか? 宮崎 DLCの開発は、まだ完全には終わっていないので、なかなかそういう心境にはなれませんが……(苦笑)。 本編であれDLCであれ、それを作っているときはいつも必死で、「もっと開発期間が欲しい!」と切望しているのですが、終わってみると、本当に長い時間作っていたんだな、と感じます。 もちろん、そこには多くの苦労があったわけですが……。でも、何よりもとても楽しい時間でした。開発チームのスタッフはじめ、関係者は皆すばらしい方々、チームばかりでしたし、マーティン氏との協働は、とても光栄で刺激的なものでした。 こう言うとお叱りを受けてしまうかもしれませんが、私としては、仕事ばかりではなく、生きがいとしてゲームを作っている部分があり、そうした意味でも『エルデンリング』は得難い体験でした。 すばらしい、多くのユーザーさんにも恵まれ、本当に幸運だったと思います。どうしても、感謝ばかりになってしまいますね。 ――では、つぎもまた『エルデンリング』級の規模のゲームを作りたいという思いはありますか? 宮崎 はい。あります。すぐに取り掛かれるものかどうかはわかりませんが、許されるのなら、挑戦してみたいです。 スタッフ皆もそうかと思いますが、今回の『エルデンリング』での経験を活かしたいと思っていますし……。それより何より、大きな世界と冒険を作るのは、本当に楽しく、ワクワクするんですよ。 “影の地”に向かうミケラの足跡を追う物語、そこで描かれる、“影の地”と女王マリカの過去。新たに登場する武器種などを駆使して挑む、まだ見ぬ強敵たち。 気になることはまだまだたくさんあるが、まずは発売日が決まったことを喜びつつ、ここから始めて“狭間の地”に降り立とうとするプレイヤーも、すでに数多の困難に打ち勝って歴戦の英雄となっているプレイヤーも、来たる時に備えて準備を整えておこう。