【処理水放出1年 浮かび上がる課題】 汚染水 発生量抑え込めるか 新対策コスト膨大 福島県
東京電力福島第1原発構内に林立している千基以上のタンク群。多核種除去設備(ALPS)で、高濃度の放射性物質を含んだ汚染水からトリチウム以外の放射性物質を除去した処理水が保管されている。 海洋放出の開始から1年近くが経過し、21基のタンクが来年1月に始まる解体を待つ。東電は9日に報道関係者に現場を公開し、「放出前のトリチウム濃度などは基準を満たしている」として、計画通り安全かつ順調に放出が進んでいると強調した。 放出は2041~2051年まで続く見通しだ。しかし有識者は汚染水の発生を止めない限り、工程通り進むか不透明だとみる。「汚染水を抑え込まない限り、放出作業は終わらない。タンクは次第に老朽化し、トラブルを招くリスクも高まっていく」と指摘する。 ◇ ◇ 東電は放出するトリチウム総量の上限を年間22兆ベクレルと定め、昨年8月24日以降、7回にわたり計約5万5千トンの処理水を海に流した。
ただし、汚染水は毎日、発生し続ける。1~3号機に計約880トンあるとされる溶融核燃料(デブリ)にかける冷却水と、建屋に入り込んだ雨や地下水が混じり合い、1日当たり約80トンが生じる。汚染水の一部は循環して冷却水に使用され、残りはALPSで浄化されて処理水となる。 1日時点の処理水の総量は約131万トンに上る。一方、海洋放出で約1年間に減った量は約3万2千トンだ。全てを放出するには単純計算で約40年を要することになる。新たに生み出される処理水もあり、このままのペースなら廃炉完了目標の2051年を超過するのは必至だ。今後、空になるタンクも増えていくとみられるが、現時点で解体が決まっているのは全体(1046基)の2%に過ぎない。 現在、運用している建屋周辺の地盤を凍らせる「凍土遮水壁」に加え、東電は汚染水対策の新たな一手を打つ。耐久性に優れた幅約60メートルの鋼鉄製の止水壁を建屋周辺に埋設したり、地中にセメントを流し込んで地盤を固めたりするなどして止水性を向上させる検討に入った。2028年度末までに、汚染水発生量を1日当たり50~70トンに抑制したい考えだ。
◇ ◇ 新たな対策は有効なのか。経済産業省汚染水処理対策委員会で委員長を務めている大西有三京都大名誉教授は「完成すれば地下水の建屋への浸入はほぼなくなり、汚染水の量はかなり減少し廃炉工程にも良い影響を与える」と評価する。 一方、対策を実現させるには膨大なコストや施工方法の詳細が決まっていないなどの課題が残されているという。「実現には時間がかかるだろう」と見通す。凍土遮水壁の長寿命化などに取り組む必要性を訴え「汚染水対策には地道な努力が欠かせない。専門の技術者を育成していくことも重要だ」と強調している。