『アイのない恋人たち』前田公輝×深川麻衣、息ピッタリの「ごめん!」 “全員破局”展開に
「付き合う」行為とは不思議な約束だと思う。別れた場合、出会う前より遠い関係になってしまう可能性がありながら、それでも「付き合いたい」と思うのはなぜなのか。そして、「付き合う」上で何を価値あるものと見なすのか。 【写真】ウェディングドレス姿で街中を疾走の深川麻衣 その答えは当然、人によって違う。そんなことはすでにわかっていたはずなのに、ドラマ『アイのない恋人たち』(ABCテレビ・テレビ朝日系)を観ていると、時々はっとさせられることがある。 『アイのない恋人たち』第5話は、ただの男女関係を超えた何かへと進化する過程を描きながら、私たちに「付き合うとは一体何なのか?」という問いを投げかけてくるようだった。 今回注目すべきは、結婚を目前に控えた雄馬(前田公輝)と奈美(深川麻衣)のカップルの進展だろう。そのラブラブっぷりは、もはや親に反対されたことすらも、愛する2人の“乗り越えるべき壁”に見えるほど。奈美が「しゃらーんっ!」とドレスを試着するたびに見せるハイテンションすぎる笑顔に、不安を全く感じないといえば嘘になるかもしれない。 それでも「あんなふうに後先考えずに恋愛に夢中になれるなんて、素敵じゃないですか」という栞(成海璃子)の言葉が、視聴者の心情を代弁してくれる。随所で描かれた金銭感覚のズレも含めて少々不安な部分はあるが、応援したくなるまっすぐさがこのカップルの良いところだろう。 雄馬の家で同居を始めた2人は、奈美の親の反対を押し切り、小さな結婚パーティを計画する。その準備のため、真和(福士蒼汰)、多聞(本郷奏多)、絵里加(岡崎紗絵)、栞の4人が集まり、それぞれが気まずさを感じながら打ち合わせをすることに。さらに雄馬と奈美は、愛(佐々木希)を結婚式のゲストリストに加えるが、はっきり言ってこれも嫌な予感しかしない。 そして迎えた結婚式の日、悪い予感は現実となる。奈美が多聞の秘密を栞にバラしたことをきっかけに、今までに積み重なった不満が爆発した2人。「雄馬くんとやっていく自信がなくなって」「奈美ちゃんとは、金銭感覚も合わないし」と、結婚式はまさかのキャンセルに。そっくり似たようなメッセージを残して消えた花嫁と花婿……やはり奈美と雄馬は、ある意味ではどう考えてもお似合いとしか言いようがない。「恋愛は同じレベル同士が付き合う」とはよく言ったものだが、2人は内面の未熟な部分も似ていたのだろう。 振り回された周りを思うと気の毒で仕方ないが、ご祝儀を返すシーン然り、コメディチックな雰囲気に「こんなことある?」と思いながらもクスッと笑ってしまう。結婚式の衣装のま街中に飛び出した奈美と雄馬が、偶然に出会ってしまう場面の「ごめん!」のセリフは、前田公輝と深川麻衣の息がピッタリな演技が光る瞬間だった。 ただし、楽しいパートだけでは終わらないのがこのドラマ。『アイのない恋人たち』では、これまでも各キャラクターの家族とのしがらみを描いてきた。第5話では、家族の問題として愛、多聞、奈美、絵里加がクローズアップされてきたが、ここにきて真和の家族にも問題があったことが明らかになった。 真和のアパートに訪ねてきたのは、かつて家族を捨てて他の男性と去った母親だった。その生い立ちから、真和が他人であるはずの愛と息子の関係に丁寧に向き合う理由がわかったような気がした。真和は母親の過去の不誠実な行動を攻め、父を裏切った母への怒りから、「こっちは100万年経っても、あんたを愛したりしないんだから」という言葉を放つ。 それにも関わらず、父親からは「わかったら母親を蔑むようなことは二度と言うな」と諭されてしまう。この言葉は真和を思うと心苦しい部分もあるが、一つの考え方としては「見返りを求めずに愛すること」が真の愛である可能性について、思いを馳せてしまった。 この父親の真和のやりとりのシーンを挟むことには「誰がどんな形で愛を貫くのかは、他人が決めることではない」という意味合いも含まれているのではないか。家族となれば話は別かもしれないが、広い意味では「愛したから愛してほしい」という傲慢さを無自覚に抱いていることへのメッセージのような場面でもあったように思う。 第5話では、6人……愛も含めれば7人全員が何かを諦めたり、失恋をしたりと辛い展開になった。絵里加の「愛することからも愛されることからも逃げ続けてください」という真和への言葉は、絵里加自身も含めた今の登場人物全員に刺さる言葉でもあるはず。目を逸らしてしまった“アイ”に翻弄される7人にとって、最初に取り組むべき課題もまた、失われた“アイ”を取り戻すことにあるのかもしれない。
すなくじら