『コンクリート・ユートピア』は身近な人と共有したい一作 イ・ビョンホンの怪演に脱帽
リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、年末年始で筋トレにハマった佐藤が『コンクリート・ユートピア』をプッシュします。 【写真】『コンクリート・ユートピア』場面写真(複数あり) ■『コンクリート・ユートピア』 令和6年に発生した石川県能登地方を震源とする地震により、犠牲になられた方々に深い哀悼の意を捧げるとともに、被災された皆さまに心よりお見舞い申し上げます。『コンクリート・ユートピア』は架空の物語ではありますが、本稿では災害による地盤隆起や建物倒壊の描写に触れています。予めご了承いただきますようお願いいたします。 突然の大災害が襲った世界で唯一残ったマンションを舞台に生存者たちの争いを描いた本作。タイトルには「ユートピア」とあるが、極限状態になった人が本性をあらわにして醜く争う様子は“ディストピア”にしか見えないという皮肉が面白い。秩序を失い隔離された世界の中で、必死に生き残ろうとする人間たちによる“集団心理の恐怖”がよく捉えられていた。 マンション一棟を巡る物語には、マンションの臨時住民代表・ヨンタク(イ・ビョンホン)、マンションの住人で誠実な公務員・ミンソン(パク・ソジュン)、ミンソンの妻で看護師のミョンファ(パク・ボヨン)が主な登場人物としてフォーカスされている。特に、イ・ビョンホンの表情の変化には要注目だ。『非常宣言』や『白頭山大噴火』など過去の出演作でも“正義感”の強いキャラクターを演じてきたイ・ビョンホンだが、周りからリーダーとして持ち上げられ、権力者となってからの変貌が凄まじい。秩序を保つためには人が死のうとお構いなしな“狂気のリーダー”を見事に演じきっていた。 どのキャラクターにも感情移入できる作品ではあるが、観ていて一番行動に共感できたのがミンソンだ。『梨泰院クラス』や『マーベルズ』などで存在感のあるキャラを演じていたパク・ソジュンが、“普通の幸せを守りたいごく普通の住民役”を演じていたところも面白かった。いつ底を尽きるか分からない食糧問題に直面した時に、「みんなに平等に与えるべき」という考えを持つ妻・ミョンファと、「自分たちのことだけ考えればいい」と意見がぶつかっていたミンソン。ここに正確な答えはないが、もし自分がこの場にいたらどうしていただろうか、という問いを考えながら観てみるものいいかもしれない。 そして、韓国映画ならではの“兵役経験のある男性”たちがいる舞台設定も印象的だった。作中においても、一般住民よりも“兵役経験のある男性”が優遇されていたり、力を持つ男性たちの結束力の陰には、兵役経験が関係しているように見えた。おそらく、舞台が日本だったらここまでの結束力は発揮していなかった(できなかった)だろう。 加えて、VFXやメイク、衣装の細部にもこだわりが感じられた。本作は、“韓国のアカデミー賞”とも呼ばれる第59回大鐘映画祭において、作品賞をはじめ、イ・ビョンホンが自身4度目となる主演男優賞を、婦人会会長役として存在感を放っていたキム・ソニョンは助演女優賞を受賞している。そのほか、美術賞、視覚効果賞、音響効果賞を受賞しており、映像としてもかなり見応えのある作品であることがわかる。 監督を務めたオム・テファは、インタビューで「大災害の中でマンションが1つ残ったという設定を納得させる映像を作ることが大事でした。難しかったです」と本作へのこだわりを語っている。(※)また、3階建てのマンションと同じ規模のセットを約5カ月掛けて作ったという話も明かしている。本作をこれから観るという方は、ぜひリアリティを重視した完成度の高い世界観を大きなスクリーンで楽しんでいただきたい。 また、可能であれば、本作を誰かと一緒に観てみるのもいいかもしれない。没入感に浸れる作品であるため「もし同じ状況に陥ったらどうするのか」「自分だったら何を優先するのか」と、身近の人と価値観を共有しておくこともできるだろう。 参照 ※https://www.youtube.com/watch?v=0FUKk4YNqCg&t=1s
佐藤アーシャマリア