『虎に翼』が最後まで熱狂を生んだ理由。朝ドラの常識を覆す“メッセージ性”の強さ
最後のエピソードに据えた専属殺人
寅子はあきらめずに声を上げることの重要性を説いた。明律大教授で最高裁判事の穂高重親(小林薫)が、「尊属殺人の重罰規定は違憲」と主張したが、少数意見として退けられた直後のことだった。 穂高の声が消えなかったのは知られている通り。23年後、その主張の正しさが証明された。穂高の名誉を回復したのはやはり教え子の山田よね(土居志央梨)と轟太一(戸塚純貴)である。 2人は穂高と同じく尊属殺人の重罰規定は第14条に反すると主張した。それが認められ、被告の斧ヶ岳美位子(石橋菜津美)は重罰を免れた。美位子は自分への性虐待と暴力を長年にわたって繰り返してきた父親を殺害した。 尊属殺人をほぼ最後のエピソードに据えたのは第14条をテーマとするこの作品にふさわしかった。穂高の雪辱を晴らしたということもあるが、初の違憲判断が下された歴史的事件だからである。憲法にも不備があることを象徴した事件だった。
「救いようもない世の中を少しでもマシにしたい」
忘れられつつあるが、寅子は弁護士になるはずだった。裁判官に転じたため、高等試験(現司法試験)合格時の第30回(1938年)の公約は果たせなかった。明律大でのスピーチである。 「生い立ちや信念や格好で切り捨てられたりしない、男性か女性かでふるいにかけられない社会になることを、私は心から願います。いや、みんなでしませんか。しましょうよ……困っている方を救い続けます。男女関係なく!」(寅子) 寅子の代わりに困っている人を救い続けているのはよねだ。壁に第14条が大書きされた山田轟法律事務所で戦災孤児や原爆被爆者、美位子らのために戦い続けた。 よねは117回(1969年)、こう言った。「救いようもない世の中を少しでもマシにしたい」。表現はかなり違うが、寅子もよねも社会が許せず、変革したいと考えている。そもそも2人は常に相手を意識している。よねは寅子を拒み続けたが、轟に胸の内を見抜かれた。寅子に友情を感じていたから、妊娠を機に自分から離れてしまったことがショックだったのだ。第60回(1949年)である。轟の言葉だ。 「佐田が去ったとき、おまえは心の底から傷ついた。だから怖いんだな、また関わるのが」(轟) 寅子のほうは天真爛漫。よねから「来るな!」と厳命されようが、遠慮なく立ち寄る。 第126回(1972年)、よねは尊属殺人の最高裁大法廷での口頭弁論で、嫌いなはずの寅子の口癖、「はて?」を使った。はっきりした。2人は表裏一体。切り離せない 存在だったのだ。 日の当たる場所で育った寅子と辛酸を舐め続けたよね。もっとも、第14条の精神が叩き込まれている叩き込まれている叩き込まれている2人だから、友情には影響しない。 <文/高堀冬彦> 【高堀冬彦】 放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員
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