「被災してES書けない」熊本地震で焦り募る地元就活生たち
学生「生き延びるのに精一杯」「志望企業絞るしか」
苦しい立場に置かれているのは、企業だけではない。熊本学園大経済学部4年の男子学生(21)のもとには、地震の数日後、県内の食品関連会社から「工場が被災したため一旦選考を停止します」とのメールが届いた。「地元に貢献したい」との思いから志望していただけにショックは大きく、「一度は諦めかけた」が、その2週間後「選考を再開します」との連絡があった。選考スケジュールは当初より大きく遅れている。 この男子学生は「県外の友人が内々定をもらったというフェイスブックやツイッターの投稿を目にすることが増え、正直焦っている」と胸の内を吐露。その上で「地震を経験して地元に貢献したいという思いがより強くなった。絶対に地元で就職し、皆で協力してもっと素晴らしい熊本をつくっていきたい」と力を込めた。 熊本と東京で就職活動をしている別の男子学生(21)は、「地震直後は生き延びるのに精一杯で、就活のことを考える余裕は全くなかった」。エントリーシート提出期限の延期など、被災地の学生への配慮がない県外企業もあったといい、「そういう会社って、入社したとしても社員を大切にしてくれないのかな」と伏し目がちにつぶやいた。 発災後1週間は避難所で寝泊まりしていたという、在京企業の営業職を志望する熊本大工学部4年の男子学生(23)は、「避難所は落ち着いてESを書ける環境ではなかった」と振り返る。自宅の片付けや避難所で周囲と助け合う日々で、「精神的にも物理的にも、すべてのESを提出するのは難しく、志望企業を絞らざるを得なかった。自分のような学生は多いと思う」と証言する。
熊本だけの“就職氷河期”を懸念
熊本学園大の松隈英明就職課長(50)によると、発災後「これからどうすればいいんでしょうか」という学生からの漠然とした相談が急増したという。松隈課長は、「学生にとって就活はもちろんだが、被災も初めての経験。計画をしっかり立てて対策をしてきた学生ほど、突然の事態に混乱している」と指摘。一方で、「体力のある企業は予定採用人数を減らしていないようだが、秋口から採用活動を始める、より小規模な企業は全く予想できない。熊本だけの“就職氷河期”が来なければいいが」と、採用活動落ち込みへの懸念を示す。同大では、学生のメンタルケアにも力を入れている。 全国的な新卒採用の動向はどうか。総合人材サービス会社「リクルートキャリア」(東京都千代田区)によると、「企業の採用意欲は極めて高い状況にある」という。2016年卒業の学生の採用について、予定人数を満たせなかった企業が5割を超えたことなどが要因で、民間企業の求人倍率も推計で1.74倍(リクルートホールディングス調べ)と高水準を維持。選考開始時期の前倒しの影響もあり、2017年卒業予定の大学生の就職内定率(速報)は、5月1日時点で24.6%(前年同月比3.9ポイント上昇)となっている。 リクルートキャリア就職みらい研究所の岡崎仁美所長(45)は、「地元志向の強い学生も、視野を広げて求人情報を集めてほしい。企業は若い力を求めており、活躍できる場所は必ずある。焦らずにさまざまな可能性を模索してみて」とアドバイスしている。 (クマベイス/田中森士)