圧巻の職人技‼ 10年かけ8万個の木片で描いた渾身の風景画…加茂の名匠渡辺文彦さんの組子細工が再び総理大臣賞に
各地の建具業者が技術を競う「全国建具展示会」で新潟県加茂市の職人、渡辺文彦さん(49)が製作した組子(くみこ)細工の引き戸が、最高賞の内閣総理大臣賞に輝いた。同賞を受けるのは2003年以来2度目。約8万個に上る小さな木片を組み上げ、雪を頂く長野県の黒姫山と野尻湖を絵画のように表現した緻密かつ壮大な作品だ。 受賞作品や拡大写真はこちらから 渡辺さんは渡辺建具店の2代目。組子の技術は教本を読んだり、展示会の出品作を参考にしたりと「見よう見まねの我流」で習得した。2007年に「現代の名工」に選ばれ、15年に黄綬褒章を受章した。 受賞作の引き戸は4枚建てで、並べると縦約1・8メートル、横約2・7メートルになる。新潟県内の顧客の依頼で制作したもので、約10年かけて完成させた。 題材の黒姫山は顧客たっての希望だった。現地で撮った写真を何度も見返し、「忠実な再現」を目指した。黒褐色、茶色、白の3色4種の木材で、山肌や湖面を幾何学模様で表現。幅約1センチ、厚み0・8~1ミリの木片で卍(まんじ)を変形させた紗綾(さや)形、伝統的な胡麻(ごま)柄をアレンジした模様などを張り巡らせた。 顧客は「時間がいくらかかっても(渡辺さんが)今できる精いっぱいの品物を」と所望。受賞に当たり「うれしさより、この品を作らせてくれたお客さまへの感謝の気持ちが大きい」とかみしめる。 1人で切り盛りする建具店には組子細工の戸や欄間の注文のほか、古民家や旅館の建具の仕事依頼が県内外から入る。担い手不足で地場の木工産業が過渡期を迎える中、「求められたことに最高の技術で応える。気力と体力が続く限り、そんな職人であり続けたい」と実感を込めた。