「戦後もガザをコントロール」見えてきたイスラエルの戦後戦略 注視すべき境界に設置された大規模「緩衝地帯」
イスラエル軍はイスラム組織ハマスによる奇襲攻撃を再発させないためパレスチナ自治区ガザとの境界に大規模な「緩衝地帯」の建設を推進、ガザ側の建物を次々に爆破、破壊している。米国は自治区の面積が縮小するとして反対だ。見え始めたイスラエルの戦後の軍事戦略を探った。
工兵部隊の戦死で明るみに
イスラエルの「緩衝地帯」建設の計画が大々的に明るみに出たのはイスラエル軍が1月22日、ハマスの攻撃を受け、工兵部隊の21人が死亡するというガザ戦争勃発以来、最大の戦死者を出したことからだった。戦闘部隊ではなく工兵部隊が前線で何をやっていたのかに注目が集まった。 この日、工兵部隊は2つの建物を爆破して破壊するため、大量の爆薬を建物内部に仕掛けていた。そこにハマスの戦闘員が対戦車ロケット弾を発射したため、爆薬に引火して爆発、建物が倒壊して多数が下敷きになった。はからずも工兵部隊の活動が表面化することとなったわけだ。 イスラエル軍の発表や地元メディアなどの報道によると、軍は昨年10月7日のハマスの奇襲攻撃に懲り、イスラエルとガザの境界に無人の緩衝地帯を建設する計画を決めた。従来は境界にハイテクのフェンスを設置し、ガザからパレスチナ人がイスラエルに侵入してこられないよう防止していたが、これが容易に破られたため、幅広い緩衝地帯の建設を進めている。 緩衝地帯は平均で幅約800メートル、長さ約60キロメートルに及ぶ。緩衝地帯の線上で破壊予定のガザ側の建物は2850棟もあるが、すでに3分の1以上を破壊したという。 イスラエル軍は緩衝地帯を「発砲ゾーン」とする考えで、この一帯に立ち入った者は攻撃の対象にする。地雷の埋設やトンネル掘削の防止策も施すと想定されている。
問題は、ガザ地区は和平の枠組み「オスロ合意」で将来のパレスチナ独立国家の一部となる地域でもあるということだ。緩衝地帯の設置によりその領土が縮小されるのはパレスチナ側にとっては容認できない。イスラエルとパレスチナ国家の「2国家共存」を追求するバイデン政権はイスラエル側に反対を伝えたが、イスラエルは一時的な措置として無視している。