【遺産総額1億円超】「父の遺産、すべて母に渡したい」心優しいひとりっ子〈相続放棄〉を検討するが…未来に起こる、とんでもないリスク【司法書士が解説】
亡くなった父の遺産をすべて母に渡すため、1人息子の自分は相続放棄したい…。そんな母親思いの行動が、祖父母、あるいはおじおばといった親族関係に、大きなトラブルを引き起こすリスクがあるのをご存じでしょうか。相続放棄を考えたとき、本当に選択する必要があるのか、十分な吟味が求められます。多数の相続問題の解決の実績を持つ司法書士の近藤崇氏が平易に解説します。 年金に頼らず「夫婦で100歳まで生きる」ための貯蓄額
亡くなった父の財産は、すべて母親に渡したいが…
相談内容 70代の父が亡くなりました。 私は40代の会社員で一人息子、結婚して実家を離れています。私の生活にはゆとりがあるため、預貯金と横浜市の自宅、総額1億円を超える父の遺産は、すべて母に相続してもらい、老後生活に役立ててもらいたいと思っています。 私が「相続放棄」するのが最も簡単な方法だと考えていますが、その場合の注意点を教えてください。
負債があれば親族トラブルに、不動産があれば共有問題に
回 答 相続放棄は、亡くなった方の相続について「はじめから相続人でなかった」ことになる制度です。つまり、相続放棄をすると、亡くなった方とは「相続関係において」は無関係になります。 民法第939条 「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。」 亡くなった方に多額の負債があった場合、これを次世代に引き継がせるのは余りにも酷です。これを防ぐためにある制度といってもよいでしょう。 そのため、よく検討しないで相続放棄してしまうと、思いもよらない相続トラブルに発展するリスクもあります。 今回の相談内容の場合、1人息子が相続放棄することで、下図のように相続関係が変化することになります。 つまり、父親が亡くなったことで、母親(配偶者)と子(1人息子)が相続人となるところ、子が相続放棄したことで、母親だけが相続人となり、子ははじめから相続人でないことになるのです。 しかし、もし亡くなった父の尊属(子から見た祖父母)が存命の場合は、その方たちも相続人となります。 このように、1人息子が相続放棄をしてしまうと、相続において子は「はじめからいなかったもの」として扱われてしまいますので、子どもがいない夫婦と同じ相続関係となります。 つまり、妻(配偶者)と夫の両親(あるいはきょうだい)が相続人となってしまいます。 こうした場合、やはりトラブルとなりやすいのが、妻と夫の親族が共同相続人となってしまうことです。はっきり申し上げると、往々にして遺産分割協議が上手くいかないケースが目立つのです。 このようなケースで、目立った負債(借金)がないのなら、妻と子で「妻がすべての財産を相続する」という遺産分割協議を行うほうがいいでしょう。 もちろん、亡くなった方に借金などの債務が多い場合は別です。そのような状況であれば、親族が協力して相続放棄の手続きを行うべきです。 子や妻が相続放棄をした場合、亡くなった夫の両親、両親がいない場合や相続放棄をした場合は、亡くなった夫のきょうだいが相続人となってしまいます。その場合、先順位で相続放棄をした方の手続が終わり次第、すべての相続人が順々に相続放棄をします。 こうしたケースにおいても、遺産分割協議をした方がよりスムーズだといえます。 近藤 崇 司法書士法人近藤事務所 代表司法書士
近藤 崇