陰謀論は米国の「体質」、ケネディ暗殺から60年の今もなお 背景に政府不信か、トランプ前大統領の影響も大きく【ワシントン報告②陰謀論】
米国で陰謀論を聞かない日はない。今年で発生から60年となるケネディ大統領暗殺事件は、今なお陰謀論にまみれている。虚実織り交ぜた主張を展開したトランプ前大統領の影響も大きく、どう見ても荒唐無稽としか思えない主張が幅をきかせた。歴史に根ざす米国の体質との議論もある。一頃に比べれば勢いは下火になったものの依然としてある、政府への不信感が一つの背景ではなかろうか。(共同通信ワシントン支局長 堀越豊裕) ▽膨大な史料 膨大な史料が集積するワシントン近郊の国立公文書館新館。ケネディ暗殺の文書は500万ページを超え、一つの事件としては「指折りの多さ」(公文書館アーキビスト)という。目指す史料にたどり着くのは大変な根気がいる作業で、それを手助けするための分厚いインデックス・ファイルが閲覧室にはずらりと並んでいる。ケネディ事件に特に詳しいアーキビストも手助けしてくれる。ケネディ事件に今なお陰謀論が付いて回る理由を尋ねてみると、「それはわれわれの業務とは直接関係がなく、アーキビストの職務範囲を超える」とかわされた。
公式には元海兵隊員オズワルドの単独犯行と結論付けられているが、数々の疑問がある。犯行場所とされたテキサス州ダラスの教科書倉庫ビル6階から正確に頭部を撃ち抜く技量の有無に加え、2日後にダラス市警の地下でオズワルドを射殺したナイトクラブ経営の男の動機もはっきりしない。何より、逮捕直後、警察に詰めかけた記者団から大統領を撃ったのかと聞かれ、「ノー。ソ連にいたことがあるから疑われた。だまされた」と口走ったオズワルドの発言が今も尾を引いている。 ▽えたいが知れない オズワルドの単独犯行でないとすると、裏で操っていたのは誰だったのか。 数多い秘密工作で知られた中央情報局(CIA)の関与説が消えないのは、えたいの知れない力を持った組織だという国民の疑念に基づく。キューバのカストロ政権の転覆計画にまつわるCIAとケネディの対立が疑惑に一定の信憑性を与えた。 犯人は本当にオズワルドだったのか。ケネディ暗殺に詳しいバージニア大のラリー・サバト教授(政治学)は取材に「それ以外の可能性を排除できないとはいえ、1%をはるかに下回る」と断言した。今も一部の史料が未公開の理由についても「個人名が書かれているからではないか。今も生存している関係者はいるだろうし、自由のない外国の人がいるかもしれない」と語った。事件の本質とは無関係であっても、プライバシーの保護から公開できないのではないかとの見立てだ。