『全領域異常解決室』“神”ドラマを成立させた構成の妙 納得をもたせる脚本と映像センスで応えた演出陣
■視聴者を“論破”してくれる黒岩勉氏の筆致 そんな“構成の妙”とともに、今作を絵空事の“ありえない話”にさせなかったのは、脚本の黒岩勉氏によるものが大きい。黒岩氏は連ドラデビューとなった『LIAR GAME Season 2』(フジ)を皮切りにその劇場版や、転機となったスマッシュヒット作の『僕のヤバイ妻』(カンテレ)、最近では『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(TBS)や『グランメゾン東京』(同)なども手がける超ヒットメーカーである。 黒岩氏の特徴を一つ挙げるとするなら、“辻褄合わせの巧者”だ。例えば、氏が手がけた100年以上も昔の原作を現代版に置き換えた『モンテ・クリスト伯-華麗なる復讐-』(フジ)や、架空の“殺人球菌”をテーマにした『グレイトギフト』(テレビ朝日)などからも分かるように、どんなに突拍子もない設定や、難解で入り組んだテーマを用いたとしても、視聴者が納得でき得るだけのエピソードを配し、我々を見事に“論破”してくれる脚本家なのだ。 その手腕が今作にもいかんなく発揮され、「神が登場する」という、どこをどう辻褄を合わせればいいのか分からない超難問テーマであるにもかかわらず、視聴者を大いに納得させるストーリーテリングだった。また最終回のキーアイテムにもなった、首元に貼ることでその人物を操ることができる「呪符」など、神にまつわる複雑な設定は、作り込めば作り込むほど綻びが出てきそうなのだが、視聴者を寄せ付けない難解さではなく、複雑で分からないからこそ楽しめる“深み”として昇華させた。 “辻褄合わせの巧者”といえど、外側の骨組みだけを巧みに構築できるのではなく、内側の“人情”も巧みなのが黒岩氏だ。例えば、トリックと不可解が逆転した第3話は、“タイムホール”というSF要素を持ち出しながら、研究者の愛の物語も壮大かつ繊細に描き出し、大きなフィクションの中に丁寧な心情描写を潜ませる、巧妙な人間ドラマであった。その人間ドラマの巧みさは、後の神の登場後も健在で、共感できるはずがない神々のキャラクターをも視聴者に納得をもって魅せる“神ドラマ”として表現してみせたのだ。