ポルシェ「911」のオープンモデルを試す!「カブリオレ」と「タルガ」は「後期型」になって何が進化した?
個性的スタイルのタルガはまさしくGTな走り
次に「タルガ 4 GTS」に乗る。現時点でタルガボディはこの4WDとGTSの組み合わせのみの設定だ。タルガは1960年代にオープンカーの安全性に対する要求が高まるなかで生まれたボディタイプだ。車両横転時にドライバーの生存空間を確保するために太いBピラーを備える一方で、ルーフとリアウインドウを折り畳んで格納することでオープンカー並みの開放感が得られる、その両立が目的だった。車名の由来は1950年代からポルシェが活躍したイタリア・シチリア島で行われた公道レース「タルガ・フローリオ」といわれる。 タルガのメカニズムは前期型と後期型で大きな変更点はない。タイプ992では初代タルガのデザインを再現しながら、ルーフの格納は手元のボタンひとつで行える電動開閉式になっている。ボタン操作を行うとリアウインドウ部が後方へと持ち上がり、乗員の真上にあたるルーフパネルがそのあいたスペースへと収まるという仕組みだ。なかなかに複雑な機構であるため走行中の操作は行えない。開閉に要する時間は約19秒となっている。 これだけの複雑機構と4WDということもあり、タルガ 4 GTSは現段階のラインアップにおいてはもっとも重く(車両重量1745kg)、もっとも高価な(2615万円/消費税込)なモデルとなっている。それゆえ心臓部にはパワフルな新しいハイブリッドユニットが与えられたというわけだ。
自然吸気エンジンに乗っているかのような印象を受ける
エンジンは電動化のために新開発された3.6L水平対向6気筒を採用。これに最大11kW(15ps)のパワーを発生する電気モーターを内蔵する電動ターボチャージャーを組み合わせる。駆動用の永久磁石同期式モーターは、8速PDKのトランスミッションケースに組み込まれている。アイドル回転数から最大150Nmを発揮しエンジンをサポート。400Vの電圧で作動し、最大1.9kWhの電力を蓄える駆動用のリチウムイオンバッテリーを搭載。車内アクセサリーなどを使用するための12Vバッテリーは軽量化のため薄型タイプのリチウムイオンバッテリーに置き換えられており、ボディ後部に配置されている。これらを組みあわせ、システムの合計出力は541ps、合計トルクは610Nmを発揮する。 ハイブリッドシステムとしては電動走行しない、いわゆるマイルドハイブリッドだ。後期型から備わったエンジンスタートボタンを押すと、3.6Lフラット6が目覚める。アイドル回転数からモーターがアシストするため、動きだしからトルクフルで力強い。4000rpmを超えたあたりからは、低音の効いたエグゾーストノートが高まる。メーターの中央にバッテリー残量の表示があり、回生時には左側にグリーンの、アシスト時には右側にブルーのバーの表示が伸びる仕組みとなっているためハイブリッドであるとわかるが、おそらくそれを見なければモーターの存在は感じないはずだ。ターボラグもないためパワフルな自然吸気エンジンに乗っているかのような印象を受ける。 1600kgのカレラ カブリオレに対して145kg重いタルガ 4 GTSにはやはり重さを感じる。しかし、それを補うほどのパワーがある。そして、タルガの魅力は何よりもそのスタイリングのカッコ良さ、個性にある。ワインディングロードを気持ちよく流していると、これはまさにGT(グランドツーリングカー)なのだと思った。 かの地の人たちは、なにも目を三角にして走ることだけが911の価値ではないと知っているのだろう。だからポルシェも初代から変わることなく911にカブリオレもタルガも、その両方をラインアップし続けているのだ。
藤野太一(FUJINO Taichi)