【朝ドラ『ブギウギ』】大ヒットの理由は、恋愛を描き過ぎていないことにあり!?
NHKの連続ドラマ小説109作目『ブギウギ』が大きな支持を集めている。いまだ主人公の笠置シヅ子に恋の気配は感じられないが、多様な「愛」が丁寧に描かれている。実はヒットの隠れた要因は、その「愛」への共感にあった! 朝ドラ『ブギウギ』今のところ「恋愛フラグ」がナシ!?その理由は?
2ヵ月経っても恋の気配がない
想像以上に、と言っては申し訳ないが、NHK朝ドラ『ブギウギ』が好評だ。昭和のスター・笠置シヅ子という、令和に生きる私たちにはやや耳慣れない女性をモデルとしているだけに、放送前はあまり関心が寄せられているようには見えなかったこの作品。しかし主人公・スズ子を演じる趣里(33)の圧巻のパフォーマンス、主人公の人生のドラマチックさ、そして彼女を取り巻く人たちとの丁寧な人間模様描写が功を奏し、がっちりと固定ファンを掴んだ印象だ。 そこで気になってくるのが、朝ドラの定番盛り上がり要素と言える主人公の恋模様だ。ところが、物語の開始から2ヵ月が経つ今もって、『ブギウギ』にはいわゆる愛だの恋だのがほとんど登場しない。それどころか、恋愛フラグを思わせるようなイケメン俳優すら、今のところ一人も登場させていないのだ。これは一体どういうことなのか? だからといって『ブギウギ』は、決して「愛」をおろそかにしているわけではない。むしろ、男女間以外の愛は、これまでのどの作品よりも丁寧に描いている、と言っても過言ではない。親子愛、姉弟愛、師弟愛、仲間愛、そして同性間の絆を超越した愛も。そこからは『ブギウギ』製作陣が描こうとしている「愛」のテーマがしっかりと見えるし、そのテーマこそが、今作が大きな支持を得ることになった鍵を握っているのではないか、とも感じられてならない。そこで『ブギウギ』の「愛」のテーマとヒットの因果関係について、深堀りして考えてみたいと思う。
1人の少女がスターダムを駆け上がる物語
その前に、物語を簡単に説明しておこう。舞台は戦前の大阪。主人公の花田鈴子(芸名は福来スズ子)はふろ屋の娘として、愛情深い両親と少し抜けていて心優しい弟の4人家族で幸せに育った。幼い頃から歌と踊りが上手かったスズ子は、道頓堀の梅丸少女歌劇団に入団。やがて歌の才能を開花させ、東京に進出。天才作曲家・羽鳥善一(草彅剛)と出会い、“スウィングの女王”へとスターダムを駆け上がっていく。が、そんなスズ子のもとにも戦争の影は着実に忍び寄っており、弟の六郎が出征。病気で母も失い悲しみに暮れる中、遂には舞台に立つこともままならなくなってくるのだった……。 というのが、今までのストーリーだ。物語の3分の1を終えて、まずはスズ子の最初の成功が描かれた、というところである。しかしその濃密な時間経過の中で、スズ子の色恋が描かれたのはごくわずか。自分を見出してくれた演出家の松村にほのかな憧れを抱くのだが、「僕には他の女性がいる」と言われてあっさり玉砕。その描写量たるや1話にも見たないぐらいで、ストーリー展開への影響もほとんどない。何というか、「ちょっと入れてみた」というオマケ感がぬぐえない印象だった。 強いてそれらしい描写があったとしたら、むしろスズ子ではなく、劇団員仲間の秋山美月(伊原六花)のほうだろう。男役ダンサーとして活躍していた秋山だったが、ダンサー仲間の男性と恋仲になり、彼から娘役に転向するよう求められる。自分の気持ちを尊重しない相手に疑問を抱いた秋山は、最終的に娘役を拒否。「僕のことを愛していたんじゃないのかい?」と問われ、「今は全く愛していないです」ときっぱり言い切り視聴者をスカッとさせた、というシーンが話題になった。が、このときもスズ子はどちらかというと蚊帳の外で、自身の移籍問題で頭がいっぱい、という始末だった。