ジャンクで買ったフィルムカメラの描写に夢中 名機『OLYMPUS PEN D』の色あせない実力
昨年末にNikon FM2を購入してから、定期的にフィルムカメラで写真を撮影し続けている。友人二人との“写真部”も活発になり、高校生ぶりにフィルムカメラの世界を楽しんでいる。FM2のほかにも久々に二眼レフ(Ricohflex)を購入して中判の写りに驚いたり、映画用フィルムを写真用に巻き直した「シネフィルム」の流行を知り、その独特の描写を学んだり。 【画像】『PEN D』で撮影した作例たち 感光してしまったものから、修理後に撮影したものまで 写真部の友人はオリンパスのカメラが好きだ。オリンパスといえば35mmフィルムのさらに半分を感光面としたハーフ判の名機『PEN』シリーズを世に送り出した会社である。1961年から様々な種類のPENを売り出し、63年にはとうとうハーフ判の一眼レフ『PEN F』を発売するに至る。ちなみにこれらのカメラを設計したのは伝説のカメラ設計者と名高いオリンパス・米谷美久氏。 私の友人も米谷氏が設計したカメラに夢中で、著作などを読みながらオリンパスの歴史を語ってくれた。そんな彼が、 「もう『PEN F』を持っているのでいわゆる『普通のPEN』にはあまり食指が動かないんだけれど、もしPENを買うなら“PEN D”が気になっている」 という。なんでも『PEN D』はPENの中でも一番明るい大きなレンズを搭載した、豪華版のPENなのだそう。Dの意味するところは「デラックス」だと言われている。彼の一言が頭の隅に残ったまま、中野の中古カメラ屋にひとり足を運んだある日、そこに居たのがジャンク品・4000円の『PEN D』だった。 「あっ、これは彼の言っていたカメラじゃないか」とショーケースを開けてもらって本体を確認してみた。シャッターは切れるし、速度も一通り出るようだ。絞り羽根の粘りもなく、巻き上げの機構にも問題はなさそう。後玉は強めにクモっているものの、「真っ白け写真」にはならなさそうなコンディション。 ジャンク品という言葉の定義は各店舗によっても異なるだろうが、基本的に意味するところは「質問不可、返品不可、保証なし」といったところ。友人から聞いた名前のカメラだということもあり、4000円で写ったら儲けもんだと思い購入した。直後に取材での渡英を控えていたため、マスキングテープで申し訳程度に遮光し、数本のフィルムと共に持って行った。 4本のフィルムを消費して帰国後早速現像に出してみたが、案の定派手に感光していた……。しかし感光していない一部の写真を見る限り、写りは予想以上に良さそうで、レンズの曇ったハーフカメラとは思えない描写力に驚いた。 よく写るカメラであることがわかり、これはぜひとも復活させたい!とPEN D用に切り出されたモルトプレーン(カメラの内側に貼る遮光用のスポンジ)を購入。軍艦部を分解してモルトを貼り直し、再度試写を行ったところ、今度はバッチリ写るようになった。 ■そもそも『PEN D』はどんなカメラ? 改めてこのカメラの詳細を説明すると、『PEN D』は1962年に発売されたカメラで、「最高級のPEN」を目指して開発されたという。カメラの枠をはみ出るほど大きなレンズは開放F値1.9を誇る。ハーフ判なのでコンパクトだが金属製のボディは約430gあり、ずっしりしている。 ピント合わせは目測式で、左手側のバーを上下することでピントを調整する。露出計は搭載されているもののカメラ本体とは連動せず、露出系が示すLV値を参考にシャッタースピードと絞りを調整して撮影する。 下部にあるバーを左手で操作してピント調整を行う。1.2m、3mの位置にクリックがある。目測式なので“3m、F8ぐらい”で撮影するとヒット率が高い 手前にあるメーターはセレン式の露出計。レンズ環にもEV数値が表示されている(矢印参照)ので、露出計の針が示すLV値を参考にレンズ環でシャッタースピードと絞りを操作して数値を合わせると、適正露出で撮影できる なお、「PEN D」には後継機があり、露出計がセレン式からCdsへと変更された『PEN D2』、レンズがさらに明るくなり、開放F値が1.7になった『PEN D3』が存在する。後継の方が性能は高いものの、私が今回購入した初代機もとてもよく写る機種である。また初代にのみ搭載されているセレン式露出計はCdsと違い、電池を必要としないところも気に入っている。 余談だが、PENというのはそもそも大口径のレンズを搭載するうまみが少ないカメラだ。ハーフ判のためボケ量にもそこまで期待できず、むしろ絞ってパンフォーカス気味にして撮ればピントのことを気にせず気軽に撮影できるだろう……という、のちの『写ルンです』にもつながるような設計思想で作られており、実際「PEN EE」などはピント合わせの機構自体が存在しない。 そんなカメラに開放F値1.9のレンズが乗っているのはちぐはぐなようだが、使っているとそこが好きになってくる。ちなみに最短撮影距離は0.8m、開放時の被写界深度(ピントの合う幅)は約10cmで、これらを目測で捉えるのは至難の業だ。ただ、これが当たると気持ちいい。 大変気に入って300枚ほど撮影し、引き続きバシバシ撮るぞ~と思っていたら巻き上げの機構が壊れてしまい、なんと撮影不能になってしまった! あまりに惜しいのでその後、ジャンクの『PEN D』を数台購入、工具なども買ってひと月ほどかけて執念でなんとか直した。数万円ほどの追加費用がかかってしまい、ジャンクで4000円だったカメラに対してはだいぶ手痛い出費に……。 と、いうわけで中古でフィルムカメラを買うなら、きちんと整備された、できれば保証のあるものを実物を見て買うことを推奨する。『PEN D』の場合は、特に後玉にクモりのない機体は貴重。購入時にはスマートフォンのライトでレンズを照らしてしっかり確認するとよいだろう。
白石倖介