【米政権交代】 ペロシ氏「バイデン氏が早く撤退していたら」 次期大統領はマスク氏同席でゼレンスキー氏と電話
アメリカ大統領選の結果を受けて、敗れた民主党の重鎮、ナンシー・ペロシ元下院議長は8日付の米紙ニューヨーク・タイムズに対して、ジョー・バイデン大統領が「もっと早く撤退していたら、他の候補も(民主党の候補争いに)参加していたかもしれない」と述べた。民主党の中では、今回の敗因探しが続いているとされる。 他方、共和党から当選したドナルド・トランプ次期大統領は同日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と電話会談した。ウクライナ政府によると、電話にはトランプ支持者で大富豪のイーロン・マスク氏も参加していたという。 ■民主党重鎮からの批判は初 ニューヨーク・タイムズによると、ペロシ元下院議長は、バイデン大統領が大統領選から身を引けば「開かれた予備選になるという期待があった」と話した。各党が大統領候補を選ぶ予備選は、選挙の年の1月から州ごとに行われる。ただし政権与党の現職が再選を目指す場合は通常、形式的な予備選にとどまる。党内の複数の候補が各州で選挙活動を展開し、討論を重ねていくというプロセスは、今回の場合、現職のバイデン氏が再選を目指す意向を表明したため、実質的に行われなかった。 そのバイデン氏が6月末の討論会で言葉に詰まるなどを繰り返し、7月下旬に遂に選挙戦撤退を発表した時点で、投票日まで3カ月あまりしかなかった。このため民主党は急きょ、カマラ・ハリス副大統領を党の大統領候補にすることで団結した。 6月末の討論会から約1カ月後の撤退までのあいだ、バイデン氏の撤退判断に大きく影響したのが、ペロシ氏の党内での働きかけだったと言われている。 今回の選挙で下院に再選されたペロシ議員(カリフォルニア州)は今回、ニューヨーク・タイムズに対して、バイデン氏が自分の撤退を発表してからあまりにすぐさまハリス副大統領を候補として支持したと批判。そのため、複数候補が党内で競い合う機会も失われてしまったと述べた。 「大統領がただちにカマラ・ハリスを支持したので、あの時点で予備選を行うのがほとんど不可能になってしまった。もっと早ければ、事態は違っていた」とペロシ氏は言い、党内予備選で複数候補との競争を経ていれば、ハリス副大統領はさらに強い立場で本選に臨むことができたはずだとペロシ氏は述べた。 「けれどもそれはわからない。そうならなかったので。実際の起きたことを受け入れるしかない」とペロシ氏は述べたうえで、党内にはほかにも優れた候補がいただろうという考えも示した。 選挙結果をめぐり、バイデン大統領に批判的な声は他の民主党関係者からも出ているが、ペロシ議員ほど党内で影響力をもつ重鎮からの発言は初めて。 ペロシ議員はさらに、無所属(民主党寄り)のバーニー・サンダース上院議員(ヴァーモント州選出)が、民主党の敗因は、物価高など勤労世帯の心配を軽視したからだと発言していることに、反論した。 「私は彼をとても尊敬しているけれども」と前置きして、ペロシ氏は「民主党が勤労世帯を見捨てたと彼が発言しているのは、尊敬しない」と反論。民主党が銃規制や中絶権利、トランスジェンダー保護を重視したことの方がむしろ、勤労世帯の支持を失ったことに影響したとの考えを示した。 ■民主党内での敗因探し 匿名のハリス陣営関係者も政治サイト「ポリティコ」に対して、敗因はあくまでもバイデン大統領だと主張。しかし、ニュースサイト「アクシオス」によると、バイデン大統領の元側近は「いったいどうやったら10億ドルも使って勝てないなんてことあるんだ?」と反論しているという。 他方、バイデン大統領の元側近は匿名でポリティコに対して、バラク・オバマ元大統領の顧問たちが「バイデンを追い出すために民主党の内輪もめを公然と促して、カマラ・ハリスを候補にすることを支持していなかった」せいだと主張した。 民主党のジョン・フェターマン上院議員(ペンシルヴェニア州)は、「バイデンから離れようとした連中が、望んでいた選挙結果を手にしたんだ。その結果を認めるべきだ」と、政治サイト「セマフォア」に話した。 民主党のトム・スオッジ下院議員(ニューヨーク州)は党が「政治的な正しさ」を重視したことが、敗因の一部だと主張。共和党が「大学キャンパスの混乱、警察予算を引き上げろという(一部の民主党支持者の)運動、男の子として生まれた子が女子スポーツに参加している、伝統的な価値観全般への攻撃」をあげて民主党に対する攻撃材料にしたことに、民主党は十分に反撃できなかったのだと述べた。 同じくニューヨーク州選出の民主党下院議員、リッチー・トーレス氏は「X」に、敗北は「極左」のせいだと批判。党内の急進勢力が「警察予算を引き上げろ」と言ったり、「川から海まで」(ヨルダン川から地中海沿岸までの一帯でパレスチナ人は自由になるという主張)と言ったり、中南米系の人々を男性か女性かで語尾が変わる「ラティーノ/ラティーナ」ではなく性別に関係ない「ラティンクス」と呼ぶべきだなどと主張したせいで、「歴史的な数のラティーノ、黒人、アジア系、ユダヤ系が民主党から離れる羽目になった」と書いた。 ■ウォルズ知事が敗北の演説 民主党の副大統領候補だったティム・ウォルズ・ミネソタ州知事は同日、地元ミネアポリスに戻り、落選から初めて演説した。 ウォルズ氏はハリス副大統領が自分を信じてくれたことや、「強力で喜びに満ちた」選挙戦を展開したことに感謝した。そのうえで、「負けるのはつらい」し、「別の道」をどうして多くのアメリカ人が選んだのか理解するのは難しいとも述べた。 大勢が今後4年間のことを心配しているし、自分もそのひとりだと知事は言い、国のためではなく「自分のため」に権力の座に就く人物が大統領になるとどうなるか、アメリカはすでに経験済みだとも述べた。 その上で、共和党が「憎悪に満ちた政策目標」をミネソタ州に持ち込もうとすれば、自分はただちに立ちはだかって戦うと約束。 「ミネソタは常に嵐から身を守る避難場所を提供する」とも知事は述べ、「アメリカがいまだに、子供が誰一人としておなかをすかすことがない、どのコミュニティーも置き去りにされない、誰もお前の居場所はないなどと言われない、そういう場所になれると、心から信じている」と強調した。 ウォルズ氏は2022年に知事に再選されており、任期は2027年1月まで。2期までと任期が憲法で制限されている大統領と異なり、ミネソタ州知事には任期制限がないため、2026年知事選で3選を目指すことも可能だ。 ■ウクライナ大統領との電話にマスク氏も トランプ次期大統領は同日、フロリダ州の自宅マール・ア・ラーゴから、電話でウクライナのゼレンスキー大統領と会談したという。 ウクライナ大統領府の消息筋はBBCに対して、「トランプ次期大統領との電話に、イーロン(・マスク氏)も参加していて、彼に電話を渡した。そこでゼレンスキー大統領は(マスク氏に)スターリンクについてお礼を述べた」のだと話した。 会話の雰囲気について消息筋は、「普通で、仕事をするという空気で、良い会話だった」と話した。 「マスク氏とのやりとりは短かったが、トランプ次期大統領との会話はずいぶん長かった。30分は続いた」という。 マスク氏が所有する宇宙開発企業「スペースX」の通信衛星システム「スターリンク」は、遠隔地でも高速インターネットの使用を可能にする。ウクライナでは2022年2月にロシアによる全面戦争が始まって以来、戦地で欠かせない通信手段になっている。 スペースXはロシアの侵攻開始直後から、ウクライナにスターリンク通信のターミナルを提供してきた。 ゼレンスキー氏は6日の時点で、ソーシャルメディア「X」に、トランプ次期大統領の当選を祝うコメントを投稿。国際情勢に「力による平和」の姿勢で臨むその方針を歓迎するとして、その原則をもとにウクライナに「公正な平和」を実現したいと述べた。 ゼレンスキー氏はこの中で、「自らトランプ大統領にお祝いを述べ、ウクライナのアメリカとの戦略的連携の強化について協議したい」とも書いていた。 ■政権移行の動き トランプ次期大統領は7日、ホワイトハウスの業務を統括する首席補佐官に、選対本部長だったスージー・ワイルズ氏を選んだと発表した。女性がホワイトハウス首席補佐官を務めるのは初めて。首席補佐官は、政権移行においても中心的な役割を担う。 フロリダ州政界などで長く顧問として活動し、複数の共和党政治家を支えてきたワイルズ氏は、今回のトランプ陣営を律し、整然とした選挙活動を指揮したと評価されている。 選挙参謀としての経験は豊富だが、ワシントン政界での経験は乏しく、統治する側の補佐役としての経験の少なさも指摘されているが、トランプ次期大統領は勝利演説をした場でもワイルズ氏に感謝しており、信頼は厚いと言われる。 ほかの政権幹部についてはまださまざまな憶測が飛んでいる状態。マスク氏が政権入りするのかが注目されているほか、国務長官にはマーク・ルビオ上院議員(フロリダ州)やビル・ハガティー上院議員(テネシー州)、ロバート・オブライエン氏(第1次トランプ政権の首席補佐官のひとり)などの名前が取りざたされている。 国防長官にはマイク・ポンペオ元国務長官の名前が出ているほか、無所属候補からトランプ支持に転じたロバート・F・ケネディ・ジュニア氏が保健長官など何かしらのポストで登用されるのかも注目されている。 大統領選と同時に行われた連邦議会選では、共和党が上院(定数100)の多数党に返り咲くことが確実となっている。 他方、下院(定数435)でも共和党が過半数の218議席を得るかもしれない情勢となっている。BBCが提携する米CBSニュースは開票が続く現時点で、共和党は少なくとも215議席、民主党は208議席を得る見通しだと伝えている。 そうしたなかでマイク・ジョンソン下院議長(共和党)は、アメリカの有権者に託された信任を「初日」から「実現するつもりだ」と述べ、「共和党が政権を握れば、我々は国境を確実に守り、経済を成長さえ、エネルギー生産におけるアメリカの独占を回復し、過激な『ウォーク』アジェンダを終わらせる」とソーシャルメディア「X」に書いた。 ウォーク(woke)とは、人種的偏見や差別問題といった社会問題への関心が高いことを意味する表現。最近では、さまざまなマイノリティーについて、民主党支持者の多いリベラル派が権利擁護する様子を、共和党支持者の多い保守派が揶揄(やゆ)する表現にもなっている。 (英語記事 Nancy Pelosi blames Joe Biden as Democratic finger-pointing intensifies after US election loss)
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