東京・上野「1億円金塊」強盗未遂“実行役”の初公判 スタンガンで“指示役”に脅され拒否できず
「殺される」スタンガンで脅され実行役を承諾
誰かに助けを求めようにも、常にAの監視下に置かれているためそれがかなわない――。日常的な暴力から抜け出す道が絶たれた被告人は、事件の2~3日前、Aから金塊強盗事件の実行役を担うよう指示される。 計画を聞かされた被告人は自身が執行猶予中であり、そもそも強盗のような危ないことをやりたくなかったことから一度は断った。ところがAは「言い訳ばっかしてんじゃねーよ、殺すぞ! 俺の言うこと聞いてればいいんだよ」と激高。スタンガンを押し付けられた被告人はあまりの痛みに立っていられなくなり「本当に殺される」と恐怖を感じたため、実行役となることを承諾したという。 同じく実行役となったのは、別グループのメンバー1人。この人物を含めて別グループのメンバーと被告人は面識がなく、事件当時は名前すら知らなかったという。 当日、物陰に潜んだ被告人らは、被害女性が自転車で現場に到着すると、Aから「そいつだ、行け!」と指示される。被告人は、女性が自身の母親と同じくらいの年齢に見えたため、強い抵抗感を覚えたそうだ。 しかしAへの恐怖心も大きかったため、被害者に駆け寄って金塊の入ったリュックサックを奪おうと背後から両肩ひもを引っ張った。ところが被害者が大声で叫んだことで目が覚めるような気持ちになり、「これ以上はかわいそうだ」と手を離してその場から逃げ去ったという。 なお、被害者が尻もちをついた際に被告人がそのまま肩ひもを引っ張り続けたことや、もう1人の実行役が殴る蹴るなどしたことから、被害者は全治5日間のケガを負っている。
隙をついて窓から逃げ出す…そして出頭へ
当然、Aは計画の失敗に激怒して「てめー本当に何もできねーな、殺すぞ! 指詰めろ」と罵倒してきた。その後も顔を蹴られ、何度も「殺す」「指詰めろ」と言われ、スタンガンによる暴行も受けた。 共同生活していた住宅に戻った後も「お前に用はない」などと言われたことから、いよいよ殺されると思った被告人は隙をついて住宅の窓から逃げ出す。持ち出したスマートフォンで母親に電話を掛けて迎えに来てもらったが、実家はAらに知られているため、祖父母の家や漫画喫茶などで寝泊まりしていたという。 その後、塗装業の仕事が見つかり働くことに没頭する日々を送っていたが、事件から約2か月後、何気なく見たネットニュースでAらが逮捕されたことを知り、自身も警察に出頭して逮捕された。 すぐに出頭しなかった理由については「逮捕されたらすべてを話さなくてはいけない。Aらには実家を知られており、家族を人質に取られている感じがしてできなかった」と吐露した。 初公判の最後、Aの公判で証言できるか問われた被告人は「自分がやってしまったことなので事実を話したい気持ちはあるが、Aを前にしたらパニックになってしまうかもしれない。同じ空間にいられるかも分からない。真摯(しんし)に向き合ってしゃべれるよう全力で努力するが、今は体と心が逆方向に行ってしまっている」と複雑な心境を語った。 被告人はこの事件以前にも覚せい剤取締法違反という過ちを犯しているが、執行猶予判決が出て釈放された後に携帯電話の番号を変更し、それまでの不良交友関係を断ち切ろうとしていた。そして、新しい町で再スタートしようと頼ったAによって、さらに人生を狂わせることになってしまった。 法務省が公表する「令和5年版再犯防止推進白書」では、「犯罪や非行からの離脱は、ある日突然、劇的に起こるものではなく、段階的・長期的な変化の過程といえる」とした上で、その要因のひとつに「良好な人間関係の構築」を挙げている。 もし周りに適切な更生支援をしてくれる人がいたら――。そう思うと、悔やまれてならない。
弁護士JP編集部