トルコがロシアと急接近 米国やNATOの新たな脅威に?
7月15日から16日にかけてトルコで発生したクーデター未遂事件から1か月が経過した。エルドアン政権はクーデターに加担していたとして、トルコ国内の軍人や教師、聖職者らを標的にした粛清を展開。わずか1か月の間に8万人以上が仕事を奪われた。エルドアン政権はクーデター未遂の首謀者をアメリカ在住の宗教指導者フェトフッラー・ギュレン師と断定。アメリカ政府に対して身柄の引き渡しを要求しているものの、アメリカはトルコの要請には応じない構えだ。トルコ国内ではエルドアン支持者による反米主義の拡大も目立ち始めているが、欧米がより注視しているのはロシアとトルコの関係改善である。仮にトルコがNATOと距離を置き始めた場合、欧米諸国はロシアとの軍事関係や対「イスラム国」(IS)攻撃など、様々な面で変化を強いられる可能性もある。 【写真】クーデター“自作自演”説も ギュレン派粛清を加速するエルドアン大統領
「愛憎相半ばした関係」が何百年も続く両国
トルコのエルドアン大統領は9日、ロシアのサンクトペテルブルグでプーチン大統領と首脳会談を行い、昨年11月以降、断絶状態が続いていた両国の関係を修復させることで合意した。エルドアン大統領にとっては、クーデター未遂から4週間足らずでのロシア訪問となる。エルドアン大統領はプーチン大統領を「親愛なる友人」と呼び、両国が関係改善に向かって動き出したことを懸命にアピールした。 歴史的にトルコとロシアが良好な関係を保ってきた時期は短い。16世紀から20世紀前半までの間に、トルコ共和国の前身のオスマン帝国とロシア(ロシア帝国と、前身のロシア・ツァーリ国を含む)は少なくとも12回の軍事衝突を起こし、ある時はオスマン帝国が勝利し、ある時はロシア帝国が勝利するという流れが繰り返し続いた。しかし、ソ連崩壊後にトルコはロシアと様々な条約を締結し、南コーカサス地方の安定化を目指す戦略パートナーとしても協力関係にあった。 トルコは現在もEU加盟を目指しているが、7月のクーデター計画に加担した兵士や将校らに対する処罰として死刑の復活がトルコ国内で叫ばれ始めると、ドイツ政府はすぐに報道官のコメントとして「死刑制度を復活させた場合には、トルコがEUに加盟することは不可能となる」というメッセージを世界に向けて発信し、エルドアン政権を牽制している。ロシア国内では、トルコのEU加盟が結果的に二国間の関係を悪化させるだろうという声も長年にわたって存在しているが、クーデター未遂後のエルドアン政権の動きは結果的にトルコをEU加盟から遠ざけており、ロシア側の長年の懸念は杞憂に終わる可能性もある。 トルコとロシアの間では観光業を含めた経済的な交流が活発に行われており、トルコ国民はビザなしでロシア国内を旅行でき、商用でロシアに住むトルコ人も少なくなかった。しかし、昨年11月24日にトルコとシリアの国境地域で対IS攻撃作戦に参加していたロシア軍の爆撃機がトルコ空軍の戦闘機によって撃墜されたことで、両国の関係は一気に悪化した。 撃墜の約一か月前から、トルコ国内でロシア軍機による領空侵犯が数回確認され、トルコとNATOはロシアに対して抗議していた。昨年11月に撃墜されたロシア軍機もトルコ上空を領空侵犯していたが、トルコ上空を飛行していたのはわずか17秒で、その間に撃墜許可がおり、ロシア軍機が撃ち落された背景には今も謎が残っている。余談になるが、ロシア軍機を撃墜したパイロットは、7月のクーデター未遂の際にトルコ国内の空軍基地を戦闘機で飛び立ち、クーデターに加担していた。 撃墜されたロシア軍機からパイロットと兵装システム士官の2名がパラシュートで緊急脱出し、兵装システム士官はヘリでやって来たロシア軍部隊に救出されたが、パイロットは反政府武装グループによって殺害されている。撃墜事件に対し、ロシアのプーチン大統領は「テロリストの共犯者に背後から刺されたようなものだ」と怒りを隠さずにコメント。撃墜はロシアとトルコの関係に深刻な影響を与えると警告した。その後、ロシアはトルコ人観光客のビザなし入国を停止し、トルコ企業がロシアで行う経済活動やトルコからの輸入品に対して規制が設けられた。また、トルコにとって大きな収入源となっていたロシアからの団体旅行も禁止されたのだ。 サンクトペテルブルグで9日に行われた首脳会談で、トルコのエルドアン大統領とロシアのプーチン大統領は、昨年11月のロシア軍機撃墜事件以降、断絶状態となっていた両国の関係が修復に向かっていることを印象づけた。トルコで15年にわたってジャーナリストとして働き、現在は米ニュージャージー州で暮らすジェームズ・キュネイト・セングルさんがトルコとロシアの関係について語る。 「トルコとロシアの間では愛憎相半ばした関係が何百年にもわたって続いている。しかし、現在の両国間関係では両国の経済的なつながりを無視することはできない。トルコの観光業にとってロシアは大きな顧客であり、ロシアにとってもトルコは食品や農産物の大きな輸出先なのだ」