キーアイテムで紐解く2024年春のトレンド
春夏らしい華やかなモチーフや色と素材使い、そして旬のデザイナーによる革新のアイデアで誕生するランウェイルックから見えてくる最新トレンドをピックアップ。ファッションジャーナリストの高橋牧子が2024年春夏メンズファッションの最新トレンドを解説する。 キーアイテムのルックを見る!
2024年春夏メンズファッションでは、新しい「マスキュリニティ」を作り手が多様なやり方で表現して、再定義する試みが目立った。世界中でウイルス禍や気温上昇による気候変動がもたらす災害が広がるなかで、人々の生活感覚から確かさが失われ、生き方の見直しが求められている。驚異的に進化しているAIもその先行きはまだ不透明。そんななかで、ジェンダー(男女の社会的性役割)への固定観念をはじめとして、肌の色や職業、生き方などあらゆる多様性を認めようとする流れが、ここへきて改めて大きなトレンドとなっている。 何よりも突出したのは、「ジェンダーニュートラル」の深化として、女性服の要素をどう創造的に取り込むかという試みだった。軽く、柔らかく、流れるような感覚。ベージュやグレー、オレンジ味を帯びた中間色、様々なパステルカラーといった優しい色合い。ゆるやかなシルエ ットや女性服を思わせるミックスツイードや透ける素材、花のブローチやコサージュ……。 ガールフレンドからちょっと拝借したようなTシャツドレスや、小さなハンドバッグなども。デザイナーのコレクションでもそんな例は目白押し。ルイ・ヴィトンは、ダンディなテーラードコートにパール飾りを施したり、日本の女子高生がNew Preppy起源とされるルーズソックスを合わせたりしていた。 なかでも今シーズン、最も注目されている、太ももを大きく露出するマイクロ丈のショートパンツは、ウィメンズ 市場でここ数年流行している「肌見せ」のひとつ? との声も。とはいえ、同じ素材のジャケットとのスーツやシルクなどの心地よくソフトな素材で作られているなどエレガントな仕上がりだ。プラダをはじめとして、マイクロ丈パンツをウィメンズ風にジャケットインにして穿くブランドも多かった。 マイクロ丈はちょっと微妙、という向きにはひざ丈のバミューダパンツもたくさん提案されていた。同じく肌見せアイテムともいえる、ややフェミニンさを加味したタンクトップやランニング同様、このところ地球温暖化ならぬ「沸騰化」といわれる夏にはぴったりだろう。 ジャンプスーツやワークパンツなどのワークアイテムもこれまでの武骨さは減り、ゆったりとしなやかだ。 今シーズンは、全体的に穏やかさがあり、シンプルでクリーンなイメージ。「アフターコロナ」を意識してか、カジュアル過ぎないのがポイントに。なかには、リラックス感を加えたプレッピーのように上品なトラッドスタイルも。タイドアップやダブルブレストのスーツなどきちんとしたスタイルも多いが、上質な薄地のカーディガンを羽織るようなラフな感覚だ。 1980年代初頭に男らしさ、女らしさの価値観を変えたとされるジョルジオ アルマーニのソフトスーツと違うのは、もはや性差の枠すら溶けて、見えにくくなったという点か。ウィメンズではすでに紳士服そのものといった感じのテーラードスーツが普通に取り入れられている。「崩されたエレガンス」をテーマに優しい色とオーバーサイズのスーツ、ジャケットを並べたドリス ヴァン ノッテンなどは、現代的な男らしさの形をまさに提示したように感じた。 柄でも極めてフェミニンとされるタイプがトレンドに。ヒョウやスネーク、ゼブラといったアニマル柄や、懐かしいダークなイメージの花柄も。「男性のアイデンティティを再定義する」としたヴァレンティノは、レトロな花柄のジャケットが印象的だった。スパンコールやメタリックなどきらめくグリッター素材や、いかにもおばあちゃんが編んだように素朴なかぎ針編みが男性服の素材として取り入れられている。今シーズンは、マスキュリンとフェミニンという、相反する要素が融合したルックが数多く登場したのが最大の特徴だ。それは、時代と社会の変化とともに様々な見直しがされたジェンダー・ニュートラルの時代の今、デザイナーたちが提案したコレクションから見てとれる新しい「マスキュリニティ」こそがメンズ・ファッションの新潮流を作る大きなポイントだったからだろう。それに、考えてみれば、男性優位の社会はもはや男性にとっても大変なはず。ありきたりだが、ジェンダーのさらなる解放は、女性だけでなく、男性自身が固定観念から解放されてラクになる機会なのだから。 高橋牧子 ファッションジャーナリスト。国内外のコレクションや有名デザイナーを長く取材。専門紙記者や朝日新聞ファッション担当編集委員を経てフリーに。数多くの媒体に寄稿しながら、国際ファッション専門職大学の客員教授も務める。 Gorunway.com WORDS BY MAKIKO TAKAHASHI