小倉智昭「裸の女性」実況がきっかけで退社していた テレビが「不適切」であふれていた時代の秘話
土曜日深夜の生放送のとんでもない番組で、笑福亭鶴瓶が裸で走り回る様子が放送されたこともあって。それでプロデューサーが責任を取らされた。いま鶴瓶にその話すると嫌がるんだけど。 この番組に競馬の予想コーナーがあって、いつもは翌日、日曜日の予想を僕がやっていたんですね。ある時、なぜかは忘れましたが、有馬記念の予想実況を秋田弁でやってくれないか、と言われました。で、それをやったらバカ受けしたんです。 それで「小倉ってやつは相当面白い。競馬の予想だけじゃもったいないから、他のこともやらせて、山城さんにいろいろ絡ませよう」となった。 それで山城さんのツッコミ役みたいなことをやっているうちに、服を着ていない女性をひざの上に抱いて実況するとか、胸もあらわな女性が手押し車で押されてきて、僕の上を通過していくのを実況するとか、その手の企画もやっていくことになった。
アナウンス部長の説教
相当、面白い番組だったと思いますよ。視聴率もすごく取っていて目立つ番組で、「赤旗」ではワースト番組になっていたくらい。 当時、局の視聴率が低かったのはさっきお話しした通りで、「お米屋さん」なんて呼び名もあったんですね。これは視聴率の表で、0.1%以下は“※”と記されることからきていた。 そんな中で「独占! 男の時間」は、10%くらい稼いでいた。だからワーストと批判されても局の側も粘っていたわけです。 でも、そのうち局内でも問題視する人も出てきて、ある時、アナウンス部長に呼ばれた。 「小倉君、昨日のあのしゃべりは何だね」 「えっ、どういうことですか」 「裸の実況するなんて、アナウンサーとしてあるまじき行為だ」 「いや、あれは自分が意図したところではなくて演出です。演出で面白くしてくれって言うから面白くしたつもりです」 こんなやり取りをしていたら、最終的に、 「ああいうことをやってちゃ困る。今後一切やめてくれ」 って言われた。ああ、この局は俺のいる場所じゃないなって、そのとき思ったの。 ちょうど同時期に、大橋巨泉さんが、僕の競馬中継に目をつけてくれて、「お前、俺と一緒にやらないか」って言ってくれていました。だから、渡りに船で会社を辞めたんです。 〈昨今、局アナからフリーに転身というと収入が格段に増えるというイメージが強い。が、小倉さんの場合は正反対で激減。生活のためにワイドショーのリポーターの仕事をやっていた時期もあったという〉 リポーターやっていた時期は結構長かった。事件取材とか芸能人の取材とかね。 僕が始めたときには梨元勝さんとか鬼沢慶一さんとか福岡翼さんとか、そういうベテランの芸能リポーターが共同記者会見の1列目のいいところに座ってるわけよ。こっちはそんなこと知ったこっちゃないからさ、好きなところに座ろうとすると、「そこは俺の席だよ」って言われたりしたね。 それに対して噛みついて記者会見でも好きなことを聞いたりしたら、後で怒られたもんです。歌舞伎のときなんかそういうことが多かったな。たとえば先代の猿之助さんと藤間紫さんの関係が話題になっていれば、リポーターは“男女関係”を聞きたいわけよ。 僕はそのへんよりも歌舞伎そのものが好きなんで、芝居の内容とか演目のこととか、あるいは先代との思い出話とかを聞くでしょ。そうすると向こうも喜んで答えてくれるわけよ。愛人関係がどうこうみたいなことは話したくないから。 僕は本筋の話のほうが面白いと思って聞いていたんだけど、後で周りのリポーターから首絞められそうになったことがある。「ぶっ殺すぞ」って。 *** 『本音』の中で小倉さんは、あらゆる登場人物を実名で語っている。これもまた「イニシャルトーク」が全盛の令和の時代においては珍しいタイプのトークといえるかもしれない。
デイリー新潮編集部
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