『アンチヒーロー』弾劾裁判で明墨が追及したこと 神野三鈴が転落する裁判官を熱演
2024年のリーガルドラマが共有するテーマ
明墨は何度も瀬古にチャンスを与えていた。裁判官の良心に訴え、罪を認めてやり直すように暗に伝えた。弾劾裁判で罷免されると法曹資格を失い、法律家として生きることはできない。しかし、瀬古はすでに引き返せないところにいた。議員や閣僚、裁判官に「この国では圧倒的に女性が少ない」と語る。“ガラスの天井”を破るために「私が上に立って成果を上げるしかない」という瀬古の覚悟は切実である。けれども瀬古は方法を誤った。力を求めるうちに力に麻痺し、いつしか冤罪さえ生んでいた。 『99.9-刑事専門弁護士-』(TBS系)への言及があるなど、2024年現在、この国のリーガルドラマが見すえるテーマを本作も共有していて、そのことは、伊達原から瀬古への「はて?」や、道を踏み外した瀬古の人物像からも明らかだ。明墨の「やられる前にやるんです」という『半沢直樹』(TBS系)を想起させる台詞や「不適切にもほどがある」と憤る瀬古のシーンもあり、遊び心とともに過去作との連続性が感じられる。 瀬古が陥落したことで事態は急展開する。沢原は控訴審で無罪になり、松永(細田善彦)は再審が開始されて判決が覆った。赤峰(北村匠海)は松永との約束を果たした。そして、ついに12年前の一家殺人事件に光が当たる。刑務所にいる志水(緒形直人)に明墨がかけた言葉は、これまでと違いストレートに呼びかけるものだった。紗耶(近藤華)の近況を伝え、「あなたを必ず無罪にしますから」と力強く宣言する明墨に勝つ公算はあるのか。緋山(岩田剛典)と12年前の事件との関係や、緋山が探す江越の行方も気になるところだ。新事実とともに真実が明らかになることを期待したい。 ※記事初出時、本文に誤りがありました。以下訂正の上、お詫び申し上げます。(2024年5月27日11:10、リアルサウンド編集部) 誤:伊達原に泣きつく様子は「窮鼠猫を噛む」で、無人の傍聴席にたたずむ姿は全てを失った人間のそれだった。 正:伊達原に泣きつく瀬古は藁にもすがる思いだったろう。無人の傍聴席にたたずむ姿は全てを失った人間のそれだった。
石河コウヘイ