ホアキン・フェニックスが語る「ジョーカー」の役作りで大切しているもの「“この男はどうなるのか?”を突き詰めた」
ホアキン・フェニックスがアカデミー賞はじめ、数々の国際映画祭で主演男優賞に輝いた衝撃作『ジョーカー』(19)。その完結編となる『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』(通称『ジョーカー2』)が10月11日(金)に日本で公開される。悪のカリスマへと変貌する孤独な男を描き社会現象を巻き起こした前作に続く今作には、レディー・ガガが演じる謎の女性リーが登場。ジョーカーと彼女の関係を軸に、社会に蔓延する新たな闇を描きだす。第81回ヴェネチア国際映画祭で本作のワールドプレミアが開催され、オンライン記者会見に出席したフェニックスに本作への想いを聞いた。 【写真を見る】「メンタル面にも大きく影響した…」ジョーカーを演じるため20kg以上を減量したホアキン・フェニックス ■「キャラクターたちを通して伝えられることはまだあると感じていました」 アーカム病院に収監され、看守たちの暴力にさらされる日々を送っていたアーサー(ホアキン・フェニックス)。ある日、彼は別の病棟に入院しているリー(レディー・ガガ)と運命的に出会い、急速に仲を深めていく。そんななか、ジョーカーの狂気がリーへ、そして群衆へと拡散していく… 前作で金獅子賞を獲得したヴェネチア映画祭の会場で、12分間に及ぶスタンディングオベーションで迎えられた制作陣とキャストたち。フェニックスは「一作目の時の記憶は少し曖昧ですが、すごくエネルギーを感じられたし、ステファニー(レディー・ガガ)と一緒にこの作品でヴェネチアに戻って来れてうれしく思います」と感慨深げに語った。 前作が圧倒的な支持を得たあとも、続編製作については積極的なコメントを控えてきたフェニックス。それについて訊ねると「続編を作るかどうかを決めるのは僕ではなくスタジオですから。なにより監督であるトッドが作りたいと思っているかが大切なので、僕自身は発言をしませんでした」と明かした。ただし、その可能性は前作の公開前から感じていたようだ。「一作目を製作してる時から、これで終わりじゃない。いろいろな状況のもとこのキャラクターたちを通して伝えられることはまだある、と感じていました」。 そんなフェニックスは『ジョーカー2』の製作が始まる前、おもしろいごっこ遊びをしていたと教えてくれた。「ジョークで映画のポスター作りをしたんです。『カッコーの巣の上で』とか『ゴッドファーザー』とか、名作映画のポスター画像のキャラクターの顔を、ジョーカーに入れ替える。いわゆるアイコラですね(笑)。Photoshopを使っておふざけで作ったわりにうまく仕上がったので、トッドにも送りました」。 ■「僕がキャラクターの感情をナビゲートできたのは、監督と共演者がガイドになって導いてくれたから」 フェニックスのエンジンがかかったのは、脚本を目にした時だった。「とてもすばらしい内容でした。そんな脚本に導かれ、現場ではトッドが的確に指示を出してくれ、すばらしい共演者とコラボレートできました。僕がキャラクターの感情をナビゲートできたのは、彼らがガイドになって導いてくれたからなんです」。 前作で主要映画祭の主演男優賞を総なめにしたフェニックス。アーサーを演じるうえで大切なのは、アーサーは何者かを突き詰める作業だという。「前作もそうですが、掘り下げたのはアイデンティティ。役作りで“この男はどうなるか?”を突き詰めました。名声という意味でアーサーはジョーカーになることで望みを果たせました。しかし1人の男としての人生、つまり愛や家族を望んだ時に彼はどんな行動をするのか。もし自分に分身がいたら、彼は自分を見てどう考え行動するか。そこからキャラクターを掘り下げていきました」。 病みキャラとして知られるジョーカーは、メイクや衣装などエキセントリックなルックスも魅力。キャラクターデザインに加え、前作では20キロ以上も減量したフェニックスの肉体も話題を呼んだ。もちろん今作でもフェニックスは肉体を改造しアーサーを再演した。「正直、今回もきつかったですね(笑)。準備段階に行うことの多くを占めていたのが減量。ランチやディナーを抜くなど極端な方法で体重を落とすと、感情が不安定になるなどメンタル面にも大きく影響した気がします」。 前作はフェニックスのダンスシーンも話題を呼んだが、今作は全編に歌やダンスが散りばめられている。「若いころはともかく、ふだん歌ったり踊ったりすることはないですね」と笑うフェニックスや、リー役のガガの華麗なショーがハードなドラマを盛り上げた。「ミュージカルに近いスタイルですが、ミュージカル映画ではありません。制作プロセスでおもしろかったのは、キャラクターの観点から音楽を使用していること。ミュージカル映画のように“ここは大きなナンバーで盛り上げよう”という使い方はしていません」とフェニックス。 現場ではセリフ同様、歌もライブレコーディングされた。「例えばリーが歌うシーンでも、ステファニーはキャラクターの心情に合わせて声を調整してました。ご存じのように彼女はとてもパワフルな声の持ち主ですが、単にすばらしい歌を披露するのではなくキャラクターの感情に合わせて瞬間ごとに声量を調整していたんです。とても興味深いアプローチだと思いました。キャラクターがけん引する、感情ベースの音楽映画ということですね」。音楽を担当したヒドゥル・グドナドッティルの楽曲はもちろん、『バンド・ワゴン』(53)などハリウッドの名作を飾ってきたスタンダードナンバーを取り入れているのもお気に入りだという。 ■「トッド・フィリップスは想像力が豊かで変化を恐れず、しっかり結果を出せるフィルムメーカーです」 本作のメガホンをとったのはトッド・フィリップス。前作と同じく製作、共同脚本も手がけている。フェニックスにとって彼は仕事上のパートナーであると同時に、親友でもあるという。「トッドと僕はユーモアのセンスがよく似ているので、話をしていて楽しいんです。ウマが合うということですね」と目を細める。監督としてのフィリップスの魅力を聞くとオープンなスタンスだという。「常に行動は迅速で、新しいアイデアが浮かぶとすぐにトライするんです。例えば現場でいいセリフを思いつくと、迷うことなく修正する。想像力が豊かで変化を恐れず、しかもしっかり結果を出せるフィルムメーカーです」。 そんなフィリップスが「ジョーカー」シリーズにもたらしたものは大きいという。「トッドのキャラクターへの共感力が、本作の魅力と言ってもいいでしょう。彼はキャラクターに愛や感受性を持って接します。決してアーサーの行動をジャッジしないし、からかいもしない。もちろん嫌悪感も抱かない。そんなトッドのスタンスが作品に現れています。おかげで観客は、自分の好きな形でキャラクターや作品を受け入れることができるんです」。 愛を切望するアーサーと、ジョーカーを信奉するリー。2人を待ち受ける運命とは?衝撃のクライマックスをスクリーンで味わってほしい。 取材・文/神武団四郎