コロナ禍を乗り越えた新しい「パートナー」のカタチ「楽しくやらないと、続かない」共創で生み出すアイデアと喜び|Fリーグクラブ特集
一方がお金を支援し、一方がそれを享受する。受け取る側が提供するのは主に「露出」という対価。スポーツクラブにおけるその関係は主に「スポンサーシップ」と呼ばれる。 だが、エプソン販売株式会社とペスカドーラ町田のそれは、大きく異なる。 一方はリソースを提供し、一方はそれを具現化する。決して一方通行の関係ではなく、互いの課題をさらけ出し、共に解決策を探り、アイデアを持ち寄り、双方の持つメリットを掛け合わせることで、スポーツの現場を“実験場”にして、新しい価値を創造する。 両者のそれは「共創パートナー」と呼ばれる関係性である。 「エプソン」と聞けば、多くの人は「プリンターの会社」を思い浮かべるだろう。ただ両者が生み出してきたのは、マッチデープログラムやハリセンうちわ、Tシャツ、それに、小学生に向けた環境教育のイベントなど多岐にわたる。 彼らがテーマに掲げるのは「環境」「教育」「健康」だ。今では「ペスカラボ」というプロジェクト名をつけた、文字通り“研究所”のごとく、さまざまなトライを続けている。 もう一度言うが、彼らの関係は「スポンサーシップ」ではない。 なぜ両者は出会い、取り組みを始めたのか。 エプソン販売株式会社・販売推進本部・マーケティング企画推進部・梅木正史部長と、町田の関野淳太社長に、この活動の成り立ちと実態、今後のビジョンを聞いた。 インタビュー・文=本田好伸、大西浩太郎 ※インタビューは8月25日に実施しました
宣伝・広告費ではなく事業費として協力してもらう
──まずはお互いの出会いを教えてください。 関野 キッカケはちょっとした偶然でした。まず当時の状況として、コロナ禍の影響で長くクラブを支えてくださいましたメインスポンサー様が離れチームの経営面は大変な状況になり、なんとか新たなスポンサーを探して奔走していました。そんななか、うちのOB選手の橋本圭吾の知り合いにエプソン販売の社員の方がおり、まずはそのツテを頼りに伺ったのがスタートでした。 ──最初はスポンサーのお願いですよね? 関野 そうですね。最初は純粋にスポンサーをお願いします、と。ただ、エプソン販売からは単純なスポンサーという支援ではなく、もっと違う形での協力や支援体制を構築できないかというお話をいただきました。 梅木 そうでしたね。実は我々もいろいろとお話をお伺いしていくなかで、フットサルというスポーツや試合会場でいろいろできるんじゃないかと気づきました。インドアスポーツだからこそ、うちの製品や技術、サービスが一般的な他のスポーツよりも活用できるのではないか、と。 関野 そこから何回もディスカッションを重ねました。僕は、Bリーグなどでやっているようなプロジェクションマッピングとかやりたくて、エプソンさんのプロジェクターを使ってできないかな、と。 すると翌週くらいにエプソン販売さんからお電話をいただき、そうした機材を活用した会場演出の実験ならばできるかもしれないとおっしゃっていただいて。そこから具体的な話が進んでいきましたね。 ──エプソンさんは、金銭ではない形の支援のアイデアは最初からありましたか? 梅木 スポーツクラブに限定した考えはありませんでした。ただ、僕らはメーカーとして、モノを渡してあとはお客様に使ってもらうだけ、というやり方ではもうダメだという話をしていました。違う価値を提供していかないと、お客様も離れていく、と。また、ちょうど僕たちも、今後は企業として社会のさまざまな課題を解決するために、「環境」と「共創」をキーに活動を模索しているところでした。まさに自分たちだけではできないというタイミングでペスカさんのお話を聞いて、ここであれば、自分たちの新たな価値を見つけられるのではないかとなっていきました。 ──エプソンはJ3・松本山雅FCの胸スポンサーをされていますよね。 梅木 そうですね。長野県諏訪市に本社を置く、親会社となるセイコーエプソン株式会社がスポンサーをしています。 ただ、我々は「エプソン販売」という販売会社であり、よりお客様に近い立場にいます。その意味では松本山雅と同じ形よりも、また違った観点でお客様の悩みに寄り添いながらさまざまなことに一緒に取り組んだほうがより、我々の新たな可能性が見つかるのではないかと考えました。 ──当初、金銭的な支援が難しいとなった理由はなんでしょうか? 梅木 やはり、単にお金を出すスポンサードだと、短期的な結果を求められてしまいがちで、真の課題解決につなげるのは難しい。一方で、ある意味では投資的な協力にしたことで、すぐに結果が出なくても、将来的に会社の財産となる真のお客様課題の発見や、お客様への新たな提供価値の発掘にもつながる可能性があるとして経営層にも納得してもらえました。 ──「共創」でクラブの新しい価値を生み出す発想はもともとあったのでしょうか? 関野 いえ、考えていたわけではありません。コロナ禍で大小いくつものスポンサーが離れてしまったことが、ある意味では転機でした。企業において、苦しくなると最初に削減されるのが宣伝・広告費です。だから、僕たちだけではなく、スポーツ業界はみんな苦しんでいました。半分以上の収益をスポンサーフィーでまかなっているチームが大多数ですから。 僕らもそうですが、スポーツ業界は自分たちの価値を提供することで広告を出してもらってきましたが、そこが収益の柱になっている仕組みはマズいなと考えるようになりました。 エプソン販売さんにも、その考えに共感してもらいました。お金をいただいて露出しますという点のつながりではなく、きちんとした形でお返ししていく。ギブしてもらった分を、企業価値が上がるように継続的に線・面のつながりでテイクしていく。宣伝・広告費ではなく、事業費として協力してもらえることを考えました。 梅木 僕らもモノを売って終わりという部分では点と点だったので。販売後に、お客様に使っていただいて、その後、線としてもつながり続けることを求めていたので親和性を感じましたね。