誰が悪者か? 日本代表の2失点を検証。鈴木彩艶のミスと他の選手の責任【アジアカップ2023現地取材コラム】
日本代表は現地時間14日、AFCアジアカップカタール2023グループリーグ第1節でベトナム代表と対戦した。最終的に4-2で勝利したものの、優勝を目指すうえでは解消しなければいけない課題も見つかる試合だった。(取材・文:加藤健一【カタール】、取材協力:元川悦子【カタール】) 【動画】日本代表の失点シーンはこちら
●好調のサッカー日本代表がハマった落とし穴 昨年9月にはドイツ代表を撃破し、11月のFIFAワールドカップ26アジア2次予選2試合はともに5-0の完勝。9連勝という文句の付け所のない結果を引っ提げて、日本代表はAFCアジアカップに臨んだ。 初戦は毎回のように苦戦を強いられていたが、今回は11分に南野拓実のゴールで幸先良く先制する。歴代最強とも言える今大会の日本代表にとって、アジアの壁はそう厚くないものに感じられた。 しかし、そんな楽観的な観測はすぐに打ち破られる。16分にベトナム代表はコーナーキックの機会を得ると、左コーナーキックをニアでグエン・ディン・バックが頭で逸らし、ボールはGK鈴木彩艶の頭上を通ってファーのサイドネットに吸い込まれた。 キッカーが蹴る直前、ヴォー・ミン・チュンがキッカーに近づいてショートコーナーで再開させる素振りを見せると、南野拓実と菅原由勢がつられるように近づいた。グエン・ディン・バックがフリーになった刹那に放たれたキックが彼にドンピシャで合った。 グエン・ディン・バックのマークを外した格好となった遠藤は試合後、このシーンを次のように振り返っている。 「11番(グエン・トゥアン・アイン)と15番(グエン・ディン・バック)が余っていて、僕が2人を見るような形になった。誰がもう1人につくのかはっきりさせようとしたところで相手が早めに入れてきた」 遠藤が言うように、15番がニアにポジションを移すと同時に11番がややゴールから離れる動きをすることによって、遠藤がどちらにつくのか迷う時間が生まれた。ショートコーナーをケアした菅原も戻ろうとしたが、戻り切る前にキックが放たれている。ベトナム代表が用意してきた通りに決まったゴールだった。 鈴木は「組織的な部分で、チームとして課題がある」とこの失点シーンを総括した。遠藤が2人を見なければいけない状況が生まれたこと自体に、チームとして問題があった。谷口彰悟は「受け渡しで隙を作ってしまった」とチームの課題を挙げる。さらに、ベンチから見ていた野澤大志ブランドンはこう言う。 ●「実は難しい」「反省しないといけない」 「攻めている展開で、ワンチャンスに対していかに集中力を保つかというのが(GKにとっては)実に難しい。セットプレーから2失点しているというのは、もちろん細かい修正も必要ですけど、全体の締まりが甘かったんじゃないかなと」 苦しい時間帯は続く。日本代表が再び失点を喫したのが33分。遠藤が空中戦で競ったボールが後ろへこぼれ、これを先に反応したグエン・ディン・バックが菅原に後ろから足をかけられて倒れた。菅原にイエローカードが提示され、ベトナム代表がFKのチャンスを獲得する。ファーサイドでブイ・ホアン・ヴィエット・アインが競り勝つと、逆サイドに飛んだボールをGK鈴木は弾き、こぼれ球をファム・トゥアン・ハイがゴールに押し込んだ。 結果的にGK鈴木の弾いたコースが良くなかったのだが、これを防ぐことは可能だったのだろうか。GK視点で検証すると、問題点があぶり出される。 「ボール自体はあまり強くなかったですけど、難しいバウンドだった中で相手も見えていた。キャッチしにいってこぼすより、しっかりと弾ききって外に出そうと思ったんですけど、うまく弾ききれなかったので反省しないといけない」 鈴木は「手の出し方のところでミスがあった」と述べ、失点の原因を自身の「技術の部分」にあるとした。一方で「自信を持つのが大事だった」と言う野澤は「最後に迷いがあったからああいう形になったのかな」と一瞬の迷いが判断の遅れにつながった可能性を示唆している。 ベンチで見ていたGK前川黛也はまた別の視点を提供する。 ●フィールドプレーヤーに責任はなかったのか? 「(ヘディングで)折り返したところで相手が準備して走りこんでいるので相手の出だしも早かった」と、ゴール前に詰めていたファム・トゥアン・ハイの動きに触れる。「キーパーはキーパーで反省するとして、セカンドボールを想定してフィールドプレーヤーがいかに対応できるのかも大事なので、そこも含めてチーム全体で修正していかないといけない」と述べた。 では、フィールドプレーヤーの課題はどこなのか。谷口は「シュートを彩艶がはじき出すとき、自分の頭上を越えたボールへの選手の準備」と言及する。シュートのこぼれ球に反応する日本代表の選手はおらず、ベトナム代表の選手ただ1人がゴールに詰めていた。 前川の言うように、GKにはGKの責任があり、フィールドプレーヤーにはフィールドプレーヤーの課題がある。「失点しなければなんだっていい」という野澤の言葉は至極当然のようで本質を突いている。逆に考えれば失点の原因は1つとは限らない。それぞれに大なり小なり落ち度があったからこそ、ゴールネットは揺れるのである。 遠藤が競り勝っていれば、鈴木がタッチラインにはじき出していれば、こぼれ球に誰かが詰めていれば。サッカーというスポーツの性質上、誰か1人に失点の責任を押し付けることはできない。誰かを悪者にしたところで何も生まれない。いくつもの“タラレバ”を検証することを、課題の克服と呼ぶ。誰が何をできたかをそれぞれあぶり出すことで、チームとして成長していく。 (取材・文:加藤健一【カタール】、取材協力:元川悦子【カタール】)