邦題は『エイリアン/やっぱあれが一番怖いじゃん!』にしていいと思います【みうらじゅんの映画チラシ放談】『エイリアン:ロムルス』『メリーおばさんのひつじ』
『メリーおばさんのひつじ』
── 2枚目のチラシは、童謡を元にしたパロディホラー、『メリーおばさんのひつじ』です。 みうら 『プー あくまのくまさん』とかもそうですけど、今、この路線って流行ってるんですか? ── ほぼ同じ人たちがやってますね。チラシにも「『プー あくまのくまさん』のスタッフが」って書いてますし。 みうら やっぱりね(笑)。この連載で、よく江戸木純さんが絡んだチラシを手に取ってましたが、そのような感覚ですね。 ── 確かに海外の江戸木さんみたいな人たちがやってるプロダクションの映画ってことですね。 みうら このプーとかメリーの路線は他社には飛び火してないんですか? ── 権利が切れたものをホラーにする企画は他にもあると思うんですけど、最近はとにかくこの人たちが大量投入しようとしている印象です。 みうら 古い童話は当然、権利が切れてますもんね。でも、邦題は『メリーさんのひつじ』じゃなく『メリーおばさんのひつじ』にひねってあるわけですよね? あの歌に登場するメリーさんは、イメージとして子どもですよね。そのメリーさんが、なんと年を取ってとうとう羊になったってことですかね(笑)? ── この後ろにいる羊がメリーさんってことですか? みうら ですね。メリーさんは羊を飼ってるうちにとうとう羊になったんですよ。 ── 恐ろしいですね。 みうら ほら、人間が羊の子どもを産む映画があったじゃないですか。 ── アイスランドの映画『LAMB/ラム』ですよね。 みうら それです。羊の牧場やってる奥さんが羊の赤ちゃんを産んで育ててましたよね。 ── 一緒にソファーに座ってテレビ観てたりしてましたよね。 みうら 子どもが羊である以外、ごくフツーの家族団らんでしたよね(笑)。この映画でも、メリーおばさんが産んだ羊って可能性もありますよね。 ── 子どもだったら当然お母さんについてきますよね。 みうら ですよね。チラシのコピーに「みんなが死ぬまでついてくる」って書いてあります。それほど人気がある羊だってことでしょうね。 ── 羊がついてくるんじゃなくて、みんなが羊についてきてるんですか? みうら 何せ魅力的な羊でしょうから。 ── なるほど、なるほどね。 みうら みんなが死ぬまでついてくるくらい人気がある羊ですから、メリーおばさんは、さしずめトップブリーダーですね。 ── ちなみに原題は歌のタイトルそのまま『Mary Had a Little Lamb』。映画を観てないのでメリーさんの年齢は分からないですけど、確かに「おばさん」と書いているのは邦題だけですね。 みうら 「ステラおばさんのクッキー」とかあるじゃないですか。あのカンジですかね(笑)。 どんな想像をしても怒られない映画を提供してくれているわけですから。それにもっとひどいんでしょうね、ストーリー。ま、こちらとしても今後ともよろしくです。 ── でも、これだけ乱発していたらお腹いっぱいになりませんか? みうら ラム料理ばかり出されると困りますけどね。 取材・文:村山章 (C)2024 20th Century Studios. All Rights Reserved. (C)2022 Dark Abyss Productions Ltd ■みうらじゅんプロフィール 1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。