結城真一郎氏インタビュー「今は真実が常に条件付きで、一側面からは確定し得ないと思っていないと危険な時代」
実店舗を持たず、宅配に特化した〈ゴーストレストラン〉や配達業務を単発で担う〈ギグワーカー〉など、特にコロナ禍以降、社会に浸透した新しい働き方は、新たな謎の土壌ともなった。
2022年刊行のベストセラー『#真相をお話しします』以来となる結城真一郎氏の新作『難問の多い料理店』の舞台は、東京・六本木。和食に中華にエスニックと、30を優に超す看板を掲げたそのレンタルキッチンには美形の男性オーナーが1人いるだけで、料理も〈冷凍餃子〉を焼くだけだったりしたが、それもそのはず。ここは〈「梅水晶、ワッフル、キーマカレー」で“浮気調査”〉など、隠しコマンドを通じて依頼内容を伝える、料理店兼探偵屋なのだ。 中でも〈ビーバーイーツ〉の配達員にとって熱いのが〈例のアレ〉。謎解きを意味するナッツや雑煮の組み合わせのことで、運よく受注した者には時に聴取や宿題などの追加ミッションが課され、報酬も即金で3万以上。僕や私が店の近所で待機し、〈地蔵〉と化すのも無理はないが、〈もし口外したら〉〈命はないと思って〉と、無機質無表情なオーナーは冗談でもないことを言う。 「ちょうどこの構想を練る頃に、ウーバーの配達員の方々の姿を町で頻繁に見かけるようになったんですね。しかもゴースト的な業態も最近は増えているらしいし、それらをうまく掛け合わせることで、連作短編+ミステリー+現代的要素という、今回の依頼に耐えるものが書けそうだと考えました。 ギグワークという働き方自体、もちろん興味深いんですが、やはり従来にない働き方を選んだ人の中には、積極的にそれを選んだ人も、やむなく選んだ人もいる。そうしたグラデーションや配達員1人1人の背景まで、前作より丁寧に描けた連作集になったと思います」 例えば第1話「転んでもただでは起きないふわ玉豆苗スープ事件」の僕はしがない大学生、第2話「おしどり夫婦のガリバタチキンスープ事件」の私は会社が倒産し、失職中の中年男。さらに小3の息子を抱えたシングルマザーや売れないコント芸人など、本書ではそれぞれ訳ありな配達員が全6話の話者を順に務め、その謎や事件がどう決着したかを、オーナーの鬼才ぶりも含めて報告してゆく。 ちなみにオーナーが謎を解決すると、依頼人との合言葉を冠した新商品(=章題の料理)が〈「汁物 まこと」〉のメニューに載る仕組みで、ふわ玉は50万円、ガリバタは30万円など、破格の品代が探偵料となる。そもそも例のアレは10万円して、誰でも簡単に頼めないから依頼料兼着手金たり得るなど、設定が絶妙なのだ。 「配達員側がUSBを届ける〈お使い〉を1万円にしたのも、試しにやろうと思える金額を探った結果。逆に10万だとやらないと思うんですよ、怪しすぎて(笑)。料理名も合言葉以外は全部実在の料理サイトから引っ張ってきたし、こんなことあり得ないと99%思っても、1%『でもアリかもな』と思える線を狙いました」
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