頼れるのは自分だけ…親の介護、家業、夫の世話に追われる50代女性に訪れた「転機」
菅野美穂さん主演でドラマ化され話題となった大人気マンガ『ゆりあ先生の赤い糸』で、第27回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞されたマンガ家・入江喜和さんの最新作『みっしょん!! 』(BE・LOVE/講談社)。 【マンガ】「まるで自分を見ているようだ」共感の声がたくさん寄せられている話題作！ 本作は、認知症の母の介護や、仕事、子育て、何もできない夫のお世話などに明け暮れる日々を送る主人公が、54歳にして運転免許取得のために挑戦を始めるストーリー。以前FRaU webで紹介した際には、読者からも「他人事じゃない……」といった共感の声がたくさん寄せられました(前回の記事はこちらから！ )。 先日5月13日には待望の第2巻が発売。そこでFRaU webでは特別に、著者の入江喜和さんとどのようなやりとりを重ねたことで多くの人の共感を呼ぶ本作が生まれたのか、担当編集の方にお話を伺いました。試し読みとともにお届けします。 マンガ/入江喜和 文/FRaU編集部
「これをあと何日 何ヵ月 何年続ければ 私はーー『私のための1日』を送れるようになるのかな」
▼あらすじ 主人公の庵 未知(いおり みち・54歳)は、14年前に父を失った後、認知症の87歳の母・巳代子(みよこ)の介護をしながら、夫の洋二(ようじ)とともに親から継いだ本屋を営む日々を送っていた。 ほぼ引きこもり状態の22歳になる長男・祥太郎とのコミュニケーションの難しさや、介護、仕事、何にもできない夫のお世話……身の回りのいろんなことに追われる毎日に「これをあと何日 何ヵ月 何年続ければ 私はーー『私のための1日』を送れるようになるのかな」と考えるようになる。そんなある日、未知の人生を急カーブさせる「運命の出会い」が……！ 54歳 春、未知の新たな挑戦が始まるーー！ 「同居の実母が認知症で、仕事も家事も以前と同じようにこなすのは至難の業でした。足腰の弱った母を病院に連れて行くのもひと苦労で、そんな時はやっぱり車がうちにあればと思い、自分の気分転換も兼ねて免許を取ることにしたんです」 前回の記事で、本作が生まれたきっかけについてこのように語られた著者・入江喜和さん。ご自身の経験も盛り込みつつ描いた本作は、読者からの反響もたくさん寄せられたといい、「私も今親の介護をしてます」「こんなことやってました、私も」といったお手紙をよくいただくのだそう。 そんな多くの共感を呼んでいる本作が生まれるまでに、著者の入江喜和さんと編集部の間ではどのようなやりとりがあったのでしょうか？ 本作の担当編集の方にお話を伺いました。 ――ご自身もご家族の介護経験をお持ちでいらっしゃる、著者の入江喜和さんから本作のテーマについてご相談いただいた際、どのようなお話をされながら、漫画の内容を決めてこられたのでしょうか？ 入江さんご自身も55歳でマニュアル免許取得に挑戦なさったのですが、まさに主人公の未知さんのように悪戦苦闘で……。さらに同じ時期には認知症のお母様の介護も重くなられて、本当に疲れ切ったご様子でした。 それでも決して諦めず約9ヵ月かけて夢を叶えた入江さんから、新作では中年女性が免許を取る話が描きたいとご提案をいただきました。あんなに辛そうだったのに……と少し意外でしたが、教習中のエピソードは私も逐一、時にハラハラ、時に爆笑しながら伺っていたのと、「オバちゃん×MT免許取得」という物語は今この瞬間の入江さんにしか描けない掛け合わせだなと思い、打ち合わせを重ねていきました。 ――入江さんと本作についてお話をする中で意識されたことなどはございますか？ 車に興味のない読者も多いと思うので、免許取得がメインストーリーに見えないようにしましょう、ということは最初から意識していました。 入江さんの作品の醍醐味は、なんといっても“オトナ女性に深く寄り添う人間描写”です。果てしなく続くうえ、やっても誰にも褒められない家事や介護。一筋縄ではいかない家族関係。そんな閉塞的日常の中に在る主人公・未知は、いつしか自分の人生を生きることを諦めてしまった大勢の女性たちの一人のように、リアルに息づいています。雑誌が発売されるたび、「まるで自分を見ているようだ」と編集部には共感の声が本当にたくさん寄せられるんです。 車、そして「ポルシェの妖精」という憧れの人との出会いで、未知の鬱屈とした人生がどんな予想外のカーブを描いていくのかを楽しんでいただけると嬉しいです！ ――担当編集として、本作が生まれる過程の中でとくに印象に残っている出来事や作中の一場面などがあれば教えてください。 作中には、強烈な個性を放つ教官たちがたくさん出てきます。実はほとんどのキャラが、実際に入江さんが習った教官たちがモデルになっています(笑)。私もネームをいただくたび、今回はどんなクセの強い先生が出るんだろう、と密かにワクワクしています。教習シーンを彩る脇役たちにも、ぜひご注目ください！ 入江さん曰く、「この時代に生きてる疲れたオトナの方々全般に『ボチボチがんばってまいりましょうね』というだいそれた気持ちで描いた」という『みっしょん!! 』。2巻が発売したばかりのこのタイミングに、改めて手にとってみてはいかがでしょうか？
FRaU マンガ部/入江 喜和（漫画家）
