〈トランプ再来は悪夢!〉ビヨンセ、テイラー・スウィフトの女性パワーが大統領選の行方を左右するか?
ビヨンセの支持を得る〝威力〟
同様に女性のパワーと言えば、米国を代表する歌手のビヨンセが、次期大統領選挙を戦うハリス陣営に対し、400万ドルの寄付を表明し、楽曲「フリーダム」の使用を認めた。これはハリス陣営にとって勝利への大きな推進力となると受け止められている。 400万ドルというのは途方もない額であるが、大きな力となると考えられるのは資金だけではない。米国でも数少ない黒人にも白人にも熱狂的に受け入られているエンターテイナーの一人であるビヨンセの支持を得たということの意味の大きさがそこには潜んでいる。 ビヨンセは、かつては黒人としてメッセージ性のある楽曲よりも、幅広いファン層が受け入れやすい作品を発表していた。しかし、相次ぐ警官による黒人殺害事件の発生に触発され、16年に黒人性を前面に押し出した新曲「フォーメーション」を発表した。 この変化がもたらした影響はすさまじく、歴史ある人気コメディ番組サタデー・ナイト・ライブ(SNL)が、「ビヨンセが黒人になった日」という架空の映画の予告編を作成したほどであった。それは、これまでビヨンセのことを白人であると信じて曲を聴いてきた白人たちが、黒人性を前面に出した新しいアルバムの登場によって、ビヨンセが黒人であったことに初めて気づき、宇宙人が来襲したのと同じくらい驚いた、という内容であった。 何も驚かない黒人をよそに、ビヨンセの新しいアルバムを聴いた白人たちが、まるでそれまで信じていた世界が崩れたように感じて半狂乱になって逃げ惑う姿を笑うというSNLらしい皮肉の効いたものだった。もちろんビヨンセに黒人の血が流れていることは周知であったが、彼女の作風やパフォーマンスの変化がそれほど劇的であり、衝撃を持って受け止められたということを表していた。
今回の選挙で、ビヨンセの楽曲「フリーダム」がハリス陣営に力を与えるのは、ビヨンセの人気だけによるものではない。この曲は前述の「フォーメーション」が収録されていたのと同じ2016年のアルバム『レモネード』の中の作品で、20年にジョージ・フロイド氏が白人警官に殺された事件に抗議する運動の讃歌として使われた、強いメッセージ性を持つ曲である。 そもそもビヨンセが莫大な私財を投じてまでハリスを当選させたいと考えるのは、ひとえにトランプの当選阻止を狙っているからである。自由と多様性を重んじるビヨンセにとってトランプの再来は悪夢でしかない。差別が横行する過去へと戻そうとするトランプに対し、「自由よ、わが身を解放せよ」とビヨンセは歌う。