「飢餓を戦争手段にした」イスラエル首相へのICC逮捕状請求 米欧に温度差、戸惑いも
パレスチナ自治区ガザで続く紛争をめぐり、国際刑事裁判所(ICC)のカーン主任検察官は20日、イスラエルのネタニヤフ首相に対し、戦争犯罪容疑で逮捕状を請求した。戦闘休止の国際的努力が進む最中の発表で、米欧には当惑が広がり、対応に温度差が出た。 バイデン米大統領はカーン検察官の発表を受け、「許しがたい」とする声明を発表した。ネタニヤフ首相と同時にイスラム原理主義組織ハマス指導者に逮捕状を請求したことを問題視し、双方の行為は「同等ではない」と反発した。野党・共和党議員からは、カーン検察官に入国禁止の制裁を科すべきとの声も出た。 欧州連合(EU)は、ICCの独立性を尊重する立場を示した。一方で、加盟国の反応には違いもある。 ドイツは米国と歩調をあわせ、イスラエル、ハマス指導者に対する同時の逮捕状請求は「双方が同列だという誤った印象を与える」と懸念を表明した。フランスの声明は、ハマスのイスラエル攻撃を非難したうえで、イスラエルのガザ攻撃についても「受け入れがたい民間人被害」を招いたと指摘した。 米国はICCに加盟しておらず、ICCを支持するEUとは異なる立場をとってきた。2020年には当時のトランプ政権が、米軍が駐留するアフガニスタンでの人権侵害捜査に反発し、ICC検察官に入国禁止の制裁をかけている。 ■南アは歓迎 ガザ紛争を巡っては、昨年南アフリカやバングラデシュがICCに捜査を付託した。イスラエルのガザ攻撃を非難する新興国や途上国では、米欧がロシアのウクライナ侵略でICC捜査を支持しながら、イスラエルの自衛権を擁護したことに「ダブルスタンダードではないか」という反発が広がっていた。南アは、カーン検察官の20日の発表を歓迎した。 ICC検察局の逮捕状請求は、イスラエルではネタニヤフ首相、ガラント国防相の2人が対象だ。発表によると、パレスチナ自治区ガザを封鎖して「飢餓を戦争手段にした」疑いがあるとしている。民間人を意図的に攻撃した容疑にも触れた。ハマスでは、イスマイル・ハニヤ最高指導者ら計3人が対象。昨年10月7日、イスラエル民間人を組織的に攻撃し、少なくとも245人を拉致した容疑が列挙された。 ICCでは今後、予審判事が逮捕状発令の是非を決める。イスラエルはICC非加盟だが、パレスチナは2015年に加盟しており、ICCは管轄権を持つとの立場をとる。(三井美奈)