東京とイギリス湖水地方を舞台に、家族の絆を描くロードムービー!「コットンテール」
登場人物の心を癒す、イギリスの美しい自然!
妻の遺言を果たすために、主人公が散骨する場所へ向かうというロードムービーでは、高倉健主演の「あなたへ」(2012年)があったが、あの映画は妻との思い出をたどりながら、それまで刑務所の指導技官という法を守る世界の中で生きてきた男が、旅で出会った人々との触れ合いによって、自分を解放していく物語だった。ここでの兼三郎は、ウィンダミア湖へ向かう旅の中で農夫のジョンに助けられ、やはり少し前に妻を亡くしたジョンとの間で心の共鳴が起こるといったように、主人公の家族への想いを問い直す物語になっている。音のない田園風景が広がるイギリスの湖水地方の自然が、喪失感を背負った兼三郎の心を癒すように美しく、特に慧の一家と戯れるラストの丘の上からの夕景は、清々しい後味を残す。このエンディングによって、妻の遺言は兼三郎と慧が歩み寄るための二人へのプレゼントだったと観ていてわかるのだが、家族が互いを思う愛しさが込められた、初めての長編映画とは思えないパトリック・ディキンソン監督の見事な一本だ。
主要キャスト4人が揃った、特典のインタビューは必見
今回のBlu-rayには本編未公開シーン集や予告編、メイキング、ジャパンプレミア舞台挨拶(2024/2/13)ノーカットver.など、72分に及ぶ特典映像が収録されている。「万引き家族」(2018年)や「ぐるりのこと。」のリリーの演技を観て感銘を受けたという監督とリリー・フランキーの対談も興味深いが、主要キャスト4人が揃ったインタビューが面白い。映画の準備が始まったのは新型コロナウイルスが流行している最中で、衣裳合わせも本読みもすべてリモートで行われたとか。コロナによって映画の製作自体も危ぶまれたが、監督の熱意と人柄の良さに引っ張られて作品が完成しことを、4人は素直に喜んでいる。彼らの話から現場での雰囲気の良さが伝わってくるインタビューで、この特典映像は必見だ。 文=金澤誠 制作=キネマ旬報社
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