フリーアナウンサー・神田愛花『150人分のお土産配り ~配付編~』
年末年始に行ったニューヨークのお土産、リップクリーム150本。これをフジテレビ系『ぽかぽか』の現場スタッフさん全員に渡したい――。そう考えた私は、みんなが通る通路にある台の上に置き、各々取ってもらうことにした。 【画像】個性あふれる神田愛花さんの直筆イラスト(1回~39回)はこちら 有名なチョコレート″HERSHEY’S″のお店でこのリップを見つけた時は、「お土産に最高!」と信じて疑わなかった。だが帰国後、急に自信がなくなった。蓋が閉まっていても甘い匂いが香ってくるのだ。そんなの半数以上が男性(しかもその半分はオジサン)の現場で捌(さば)けるとは思えない。それに、オモチャみたいなリップクリームをお土産で配るって、学生の頃によく見た光景だと思い出した。やばい。センスが古くてダサイお土産と思われる……。こうなったら置き方で魅力的に見せるしかない!! ◆【月曜日(今年最初の放送日)】 楽屋に到着し″チーム神田″であるマネージャーとメイクさんに説明。配布ノルマはスタッフさん一人につき1本、合計一日30本。残ったらこの3人で山分け。使い切るまでずっと唇が甘い状態になるんだと通達すると、作戦会議に本腰が入った。ポップには赤と青のペンで「NEW YORKのお土産です。この時期の乾燥した唇に! 性別問わずすべての皆さんお取り下さい♡ 神田愛花」と派手に書く。そして大きなピンク色の容器に100本投入! ″アメリカ感″満載だ。 すると本番前に数人から「リップありがとうございます!」と声をかけられた。(予定のペースで捌けるかも!)とワクワクしながら本番へ。 本番後に確認すると……「あれ?」減ったのはたった20本。「このペースだと最終的に50本くらい余る……」。チーム神田は恐れおののいた。 ◆【火曜日】 朝の作戦会議で「昨日は遠慮したのでは!?」と推測。そこで今度は容器の中で山型に積み上げ、″沢山ある感″を出した。さらに、数人に「何本か持って行っていいですよ!」と声をかけた。 本番後に容器を回収すると……(えー!!)。50本も減っていたのだ。「このペースじゃ金曜日まで足りません!!」。チーム神田に動揺が走った。そして明日からは、「何本か持って行っていいですよ」なんて誰にも言わないことにした。 ◆【水曜日】 運命の分かれ道の日。この日の結果で、残り2日間の戦況が大きく左右される。作戦会議では「一旦、減るスピードを抑えよう」という意見で一致。容器を小さくし、入れておく本数も減らし、かなりしがない見た目にした。″取りにくくする″作戦だ。 とその時、衝撃的な光景が。オジサンたちがポケットから私のリップクリームを出し、唇に塗っているではないか! それも二人、三人と――。これまで一度もリップクリームを塗る姿なんて見せたことがなかったオジサンたちが、何人も唇を潤しているなんて。嬉しかった。唇が乾燥していても仕事が忙しく、仕方なく放ったらかしていたのだろう。そんな時にリップクリームが現れ、「タダなら」と使ってみたら心地よかったんだろう。と想像したら、(なんだかんだ、良いお土産のチョイスだったのかな)と思えた。 この日は当初の予定の30本が減り、残り2日で50本になった。この時点で、週後半のスタッフさんたちの中で、受け取れない人が10人いることが確定した。 ◆【木曜日】 ラストスパートだ! 残りの50本すべてを容器に投入。作戦会議の結果、せめて今日の減りを25本に抑えるべく、ポップの文言を「お一人1本どうぞ!」に変更。″数に限りがあるよ″アピールだ。作戦が功を奏し、この日は24本減に抑えられた。 ◆【金曜日】 そして最終日。残り26本。今日も確実に足りないが、チーム神田としてはもう手を尽くし切った。「陽気に振る舞う!」。これが最後の作戦になった。本番後、楽屋に戻るとマネージャーから「9本も残っています!」との報告が。取りにくかったのだろう。申し訳なく思った。 こうしてスタッフさんたちの心理vs.チーム神田の頭脳戦が終了。お土産のチョイスは良かったようだが、そもそもの数を見誤った。司令塔である私の凡ミスが、なんとなく後味の悪い幕引きになった原因だ。残った分はチーム神田で使い切るルール。私の唇はきっと、半年間は甘い香りを漂わせているんだろうなぁ。 かんだ・あいか/1980年、神奈川県出身。学習院大学理学部数学科を卒業後、2003年、NHKにアナウンサーとして入局。2012年にNHKを退職し、フリーアナウンサーに。以降、バラエティ番組を中心に活躍し、現在、昼の帯番組『ぽかぽか』(フジテレビ系)にメインMCとしてレギュラー出演中 『FRIDAY』2024年2月16日より 文・イラスト:神田愛花
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