駅前から消えた「特攻服」の中学生 補導や啓発成果 根本的な解決は?
卒業式を終えた中学生が、派手な刺しゅうを入れた特攻服を着て、JR岡山駅前の桃太郎像前にたむろするという「奇妙な光景」は、全国番組にも取り上げられるなど、一時期話題になった。今年はというと、駅前で特攻服姿の生徒はゼロだったという。岡山県警などに、どのような対策をしたのかたずねるとともに、過去の参加者を取材すると、ある「問題点」が浮かび上がった。 【写真】友情を表現した背中の刺しゅうはこちら ■恒例化した「特攻服の集団」 「一生一度の我人生 仲間と過ごしたあの日々を 一生忘れず心に刻む」 背中にインパクトのある刺しゅうを施した特攻服や学ランを着た中学生たちが桃太郎像を囲むように集う。その数はギャラリーも含めて数十人。桃太郎像前で集合写真を撮ったり、友人と談笑を楽しんだりするその集団は、十数年前から中学校の卒業式の日に毎年現れ、もはや「恒例イベント」のようになっていた。 過去に倉敷市の中学校から参加した自営業男性Aさん=20代=は友人に誘われ、先輩から借りた刺しゅう入り学ランを着て、桃太郎像前に向かったという。「特に他校の生徒と約束しているわけではなく、特攻服を着て集まるというのが文化のようになっていた。ハロウィーンと同じようなノリで、目立ちたいという気持ちだった」と振り返る。 今年は駅前で特攻服の集団がいなかったことについて「当時から徐々に減っていたし、『ダサい』とも言われていた。ただ、集まっている人間は目立ちたがり屋なだけ。陰でこそこそ悪いことをしている生徒よりもいいと思うんですけどね」とも語る。 ■100人以上で警戒 例年、卒業式当日の岡山駅周辺では、警察官100人以上を動員して、警戒してきた。今年も、生徒たちが桃太郎像に上らないように赤いコーンを並べ、取り囲むように警察官が立つ姿が見られた。 岡山県警は2019年に、公共の場で特攻服を着た生徒の集合について「非行を助長する」として補導対象に追加した。今年も岡山、倉敷市教育委員会などの教育関係者と5者協議をし、各中学校に啓発チラシを配布。刺しゅう入りの学ランがなぜ問題なのか、迷惑行為の事例も踏まえながら周知してきた。岡山市教育委員会教育支援課によると、各校の個別懇談で、保護者にも子どもたちが晴れやかな日を迎えられるように呼びかけたという。 昨年、岡山市中心部の中学校の卒業式に出席した保護者は「校門の前で教諭が、特攻服を着た生徒に『着替えるまで式には出席させない』と説得している姿を見た。学校現場の地道な努力を感じた」と話す。 岡山県内の特攻服着用による式当日の補導人数は、2020年の14人から徐々に減り、今年は7人。補導場所は大型商業施設やコンビニの駐車場だった。岡山県警少年課健全育成対策室の松下一行室長(47)は「特攻服の着用を補導対象に追加することで、きちんと根拠を設けて対策できるようになったのと、学校関係者らの丁寧な対応が減少につながった」とし、「特攻服姿で公共の場に集まることで、不安を感じる県民もいる。今後も必要な対策をとっていきたい」とする。 ■居場所づくり必要 ところが、岡山市の中学校に通う女子生徒(14)によると、駅前は警戒が厳しくなったため、今は郊外の公園に移っているという。そう言って取り出したスマホの画面には、公園付近で数十人の特攻服姿の生徒たちがポーズを決める集合写真が映っていた。 家庭や学校とは異なる、中高生の「第3の居場所」づくりに取り組む「奉還町ユースセンター」(岡山市)代表の野村泰介さん(46)は「規制を強くしても大人の目の届かないところに場所を移すだけ。根本的な解決にはならない」と指摘する。 野村さんは「特攻服を着た生徒たちは家庭でも学校でもないよりどころをつくるため、直感的に集まっている。出てきたものをたたくのではなく、本人たちのニーズをしっかりとらえた居場所づくりが大切」と強調する。 参加した経験があるAさんも「特攻服を着た生徒がけんかをしたり、像に上ったりすることが良くないわけで、特攻服を着ることが『悪』なのではない。周りには家庭環境に苦しんでいる子もいた。排除するだけでなく、話を聞いてあげてほしい」と訴える。