93歳で陸上の世界記録 保健大が走り方を研究し、みえてきた秘訣
90歳を超えても、100メートルを16秒69で走る。青森市の田中博男さん(93)は、マスターズ陸上で短距離走の世界記録を五つ持つ、現役の金メダリストだ。その走り方を分析し、お年寄りの体力づくりに生かす研究が始まっている。 【写真】測定用のランニングマシンで走る田中博男さん=2024年5月11日、青森市の青森県立保健大学、渡部耕平撮影 陸上競技場のトラックを、田中さんが駆け抜ける。青森県立保健大学(青森市)の篠原博教授(スポーツリハビリテーション学)の研究チームが、そのフォームを高速カメラ8台で撮影する。実習室では測定用のランニングマシンで走ってもらい、足腰と地面にかかる力の大きさや方向をデータ化する。それぞれの画像を解析し、全身の筋肉と骨格の動きを明らかにする試みだ。 篠原教授は、田中さんの走り方の研究を4月から始めた。無理のない体の使い方を解き明かし、高齢ランナーの見本となる動きを紹介することを目的としている。 田中さんはマスターズ陸上90~94歳のクラスで、200メートル走を36秒02など、年代別で数々の世界記録を打ち立てている。しかし、若いころのスポーツ経験はなし。陸上競技を始めたのも、小学校の教諭を退職した60歳からだった。 しかも、走っているときのひざの動きはやや硬く、曲げ伸ばしが十分ではないため、若者のように弾むような走り方はできない。 それでも「世界一」のランナーになれたのは、なぜか。 篠原教授は「特徴は股関節の柔らかさ」と考える。走り方を分析したところ、田中さんは足を前に出す力だけではなく、後ろに伸ばす能力がすぐれていた。多くの人は、老いると背中が曲がって腰を反らしにくくなり、足を後ろに伸ばすのが難しくなる。 しかし、田中さんは股関節の動く範囲が広いため、足が前後に大きく動き、走るときにひざが曲がったままでも、前に出る推進力を生んでいた。独特の「弾まない走り方」は、ひざへの衝撃が少ないという効果があることもわかった。 篠原教授は9月の学会で分析結果を発表する。「股関節を柔らかく保つことが、長くスポーツを続けるうえで大事だと考えられます。田中さんの走り方は、高齢者にとって理想のモデルになると思うので、全国に発信していきたい」という。 田中さんは「体力は緩やかな下降線をたどっていますが、95歳までは自分の走りを維持したい。私のフォームが、みなさんのアドバイスになれば大変うれしいです」と話していた。(渡部耕平)
朝日新聞社