試行錯誤が続くF1スプリントの開催フォーマット。“2024年版”で期待される効果と抱える問題点
3月初旬に開幕する2024年シーズンのF1では、中国、マイアミ、オーストリア、アメリカ、カタール、サンパウロの6グランプリでスプリントフォーマットが実施される予定で、その初戦となる中国GPは4月19日~21日に開催される。開幕まで時間が少なくなっている中、今季のスプリントの詳細なフォーマットはまだ固まっていない。 【ギャラリー】“美しいマシン率”も高い? 鮮やかなグリーンでF1を彩ったマシンたち 現在に至るまでFIAとF1がスプリントのフォーマットを試行錯誤しているのは、その方式がファンやドライバーから一致した支持を得られていないことのあらわれだと言える。 2024年シーズンに向けては、様々な選択肢が議論されてきた。2月上旬にロンドンで開かれたF1委員会では、金曜と土曜のイベントがシャッフルされることで合意し、昨年は金曜にグランプリ予選、土曜にスプリント予選→スプリントレースという順で開催されていたのが、金曜にスプリント予選、土曜にスプリントレース→グランプリ予選という順になる。これにより、パルクフェルメ(車両保管)ルールが適用されるタイミング(グランプリ予選時)が後ろにずれるため、各チームがレースウィーク中にセットアップの再考や調整をしやすくなる。 また、その他のシナリオも検討されていた。例えば金曜のFP1直後に、ポイントランキング順……なおかつ上位10人をリバースにしたグリッドでスプリントを実施し、土曜にFP2と予選を実施するという案もあった。もしくはグランプリ予選の上位をリバースグリッドにしてスプリントを行なうという案も出ていたようだ。さらにグリッド全体をリバースグリッドで逆転させるということまで議論されたが、これらはファンからの激しい反発が予想されるため、見送られた。 先ほども述べたように、今回のスプリントフォーマット変更はパルクフェルメルールに対応するものだ。昨年までのフォーマットでは、金曜のFP1を終えてすぐに予選が始まり、そこでほとんどのセットアップ作業が凍結されてしまっていた。もし土曜のスプリントでセットアップの方向性が間違っていたことが分かったとしても、チームはどうすることもできず、基本的に決勝レースも同じセットアップで走るしかなかったのだ。唯一できることと言えば、ルールを破って決勝ピットレーンスタートになることを承知で、大きな変更を加えるということだ。 昨年のアメリカGPで、フェラーリのシャルル・ルクレールとメルセデスのルイス・ハミルトンがフロア下のプランクの厚みが足らず失格になったことにも、このフォーマットが多少なりとも影響したと言える。スプリントフォーマットの下ではFP1までにセットアップを固めなければならないが、FP1では燃料フルタンクでの走行が十分にできず、それによって車高設定を見誤った可能性もある。 今週初めのF1委員会で合意された新スプリントフォーマットは、詳細が明らかになっていない部分も多い。これは近日行なわれるスポーツ諮問委員会の会議で議論と合意がなされる必要があるからだろう。 基本的なプランとしては、スプリント予選からスプリントレースまで、グランプリ予選から決勝レースまでと、2段階のパルクフェルメが設定されることになるだろう。これまでのフォーマットと大きく違う点は、各チームがスプリントとグランプリ予選までの間にセットアップ変更やコンポーネント変更を行なうことができるという点だ。ただどのような形で運営されるか、その間に何が許可されるかなどの詳細は決まっていない。 チームはセットアップ変更がより自由になることは歓迎しているにしても、その分仕事量が増えることを懸念している。ピットガレージだけでなく、サーキットのエンジニアルームやファクトリーのシミュレーション部門までもが、スプリントで得たデータを予選や決勝に向けて生かすため、解析に躍起になるためだ。 一方のFIAは、スプリントを開催するようになってからパルクフェルメの時間が長くなり、車両を監視するオフィシャルに負担がかかっていることに不満を感じている。そのため彼らは今回の変更でそれが解消されることを望んでいる。 新フォーマットのもうひとつの問題は、スプリントで大クラッシュを喫した場合、ドライバーはその後に行なわれるグランプリ予選に出られない可能性が高まってしまうということだ。そのためチームがスペアシャシーをこれまで以上に多く準備して、短い時間で予選に向けてマシンを作り上げられるよう、レギュレーションの面で協議が続けられている。
Adam Cooper