住宅ローン破綻、富裕層と貧困層の大きな格差…東京で起きていた「重大な変化」
人口減少日本で何が起こるのか――。意外なことに、多くの人がこの問題について、本当の意味で理解していない。そして、どう変わればいいのか、明確な答えを持っていない。 【写真】じつは知らない、「低所得家庭の子ども」3人に1人が「体験ゼロ」の衝撃! 100万部突破の『未来の年表』シリーズの『未来のドリル』は、コロナ禍が加速させた日本の少子化の実態をありありと描き出している。この国の「社会の老化」はこんなにも進んでいた……。 ※本記事は『未来のドリル』から抜粋・編集したものです。また、本書は2021年に上梓された本であり、示されているデータは当時のものです。
富裕層の「職住近接」の動きは続く
郊外に移り住む人が増えると聞くと、かつてのような大都市のドーナツ化現象を思い浮かべるが、コロナ禍においてはそういうわけではない。 東京圏の郊外へと移り住むのとは正反対とも言うべき動きも目立つ。東京都の都心部にある高級マンションなどの売れ行きは好調であったのだ。 「コロナ前」から東京の都心部は外国人投資家に人気が高かったが、日本の感染者が米国などに比べて圧倒的に少なく、投資マネーが流れ込んだことが一因だ。もう1つは「K字経済」の影響だ。コロナ不況にあっては巨額の赤字を出す産業がある一方、「増収増益」となった企業は少なくない。個々人としてもむしろ収入が増えた「コロナ勝ち組」のパワーカップルなどには、オフィス街に近いエリアにマンションを求める動きが続いているのである。テレワークが普及しても、たまには通勤せざるを得ない人は多い。通勤中の感染リスクを減らすため、なるべくオフィスに近いエリアを選んでいるのだ。「コロナ前」から一部の富裕層にはオフィス街に近い地域への「職住近接」の動きが見られたが、アフターコロナになってもこれは続きそうである。 こうした動きに拍車をかけたのが、住宅ローン破綻だ。世の無常とも言えるが、自宅を手放す人が増えた結果、良質な中古物件に割安感が出たのである。 東京都統計部の資料によれば、2020年の年間で中央、江東、品川、世田谷の4区は2000人以上の人口増加となった。千代田、文京、台東、墨田、渋谷、練馬の6区も前年を上回った。一方、新宿、豊島、江戸川の3区は2000人以上の減少となった。板橋、杉並、大田など10区も人口減少となった。 タワーマンションが一棟建つだけで人口の動きに大きな影響を与えるので、区ごとの人口増減だけでは一概に傾向を分析できないが、オフィス街に近い区を中心に人口が増え、比較的住宅街の広がる区では減っている印象だ。 住宅価格の二極化も進んでいる。東京の都心部では高所得層の購買意欲の盛り上がりとともに高価格帯のマンションが値上がりしている。一方、都心から離れた区部や郊外では低価格の戸建ての需要が減少して値下がりが顕著である。コロナ不況が長引く中で、収入が大きく減ったわけではない中所得層に新規購入をためらう人が増えているのである。 「K字経済」が、住宅価格の動向に影響を与える弊害は大きい。地域間の格差拡大を招くからだ。都心部に高所得層が集まりすぎると税収の開きが大きくなり、行政サービスや福祉、教育の水準にも差が出てくるからである。格差の固定は、東京の街づくりを難しくする。 コロナ禍にあって、本格的なドーナツ化現象が起こりそうにないのは、4人家族が主流で三世代同居も普通であったかつてとは違い、単身世帯や2人世帯が増えたことと関係がある。家族の多い世帯が郊外に新しいライフスタイルを求めるのに対し、1人暮らしは都市機能に「利便性」を求めるという、「住宅」に期待するものの違いである。 コロナ禍は東京都の人口減少と東京圏の郊外への人の流れを強めたが、東京都の人口が2030年頃から減り始めることは「コロナ前」の段階で推計されていたことである。そうした意味では、これらの動きもコロナ禍がもたらしたというよりは、時計の針を進める役割を果たしたといえよう。 どんなにテレワークが普及し、通勤が"過去のもの"になったとしても、東京がただちに輝きを失うわけではない。アフターコロナの時代でも、国際都市として人々を魅了し続けることだろう。再び、東京都は地方から人を集める勢いを取り戻すかもしれない。 だが、地方で少子化が進む以上、それも長くは続かない。東京都が"飽和状態"にあることも疑いようがない。そうした意味では、コロナ禍が、東京都が「1400万都市」であることをわずか1ヵ月しか許さなかったのは象徴的であった。人口減少に耐えられる街に変わることを、2030年を待つことなく迫ったのである。 パンパンに張り詰めた東京都に起きた小さな変化は、時代のうねりを示唆している。 つづく「日本人はこのまま絶滅するのか…2030年に地方から百貨店や銀行が消える「衝撃の未来」」では、多くの人がまだまだ知らない「人口減少」がもたらす大きな影響を掘り下げる。
河合 雅司(作家・ジャーナリスト)