ヨシタケシンスケさん流おまじない本が面白い!最新絵本『ちょっぴりながもち するそうです』刊行インタビュー
絵本作家・ヨシタケシンスケさんインタビュー ヨシタケ流おまじない絵本にこめられた思いとは?
子どもにはもちろん、大人にも絶大な人気を誇る、絵本作家のヨシタケシンスケさん。『あつかったら ぬげばいい』『かみはこんなに くちゃくちゃだけど』に続く、「心がちょっぴり軽くなる絵本」シリーズの最新作『ちょっぴりながもち するそうです』が2024年6月に発売され、たちまち大ヒット中です。 “ヨシタケさん流のおまじない”がおさめられた作品とのこと、中身をのぞいてみると…… 「こまめにストレッチすると ほとぼりがさめやすくなるそうです」 「好きな本の間に一晩はさんでおいたハンカチは 心配事をすいとってくれるそうです」 今まで聞いたことがないような、風変わりなおまじないの数々がページをめくるたび登場します。
大人が今もっとも気になるおまじない本、『ちょっぴりながもち するそうです』。その効能は? こめられた思いとは? 制作秘話をヨシタケさんご本人にうかがってきました!
なにげない行動が思いもよらないことにつながる。“因果関係”をおまじないで表現
「心がちょっぴり軽くなる絵本」シリーズの3作目として「おまじない」をテーマにしたキッカケを教えてください。 ヨシタケシンスケさん(以下ヨシタケ):今回の本は、もともとこういうことをやりたいなというのがぼんやりあったものを、このシリーズの中でやったらちょうどいいかなとはめ込みました。 「このシリーズの中で何をしよう?」と考えたというより、もともと別のやってみたかったことのひとつが、たまたまこの3冊目のラインナップになったというのが、自分の中では正しい表現かなと思っています。 一見無関係な物事をつなぐ「おまじない」的な展開が楽しい本作ですが、このテーマに決めた理由とは? ヨシタケ:いろんな理由があるんですけど、最近は、何かものを言うにもエビデンスを求められるので、いい加減なことを言えなくなったと感じていて。 「それは証拠はあるのか?」「出典は何なんだ?」「それが真実じゃなかったらえらいことだぞ!」みたいに求められて、ものを発言するときにすごく緊張を強いられるご時世だなと感じます。何を言っても文句言ってくる人がいるというか……。 そんな中で、昔のおまじないみたいに、何の根拠もないような、でも何かそう言われてみればそんな気もするよね、みたいな、いい加減な情報を楽しむ姿勢があってもいいんじゃないか、と思ったのが今回この本を作った理由のひとつです。 おまじないというと、普通は「自分の得になるための何か」というのが基本だと思うんですけど、それに限らず、自分がなにげなくした行動が別なところにつながっていく、ということが世の中にはいろいろあると僕は思っていて。 人が何かをするとその影響は必ず何かに出てくる。そういう因果関係みたいなものが世の中ではあちこちであると思うんです。 それがいいことにつながる場合もあるし、そうじゃないことにつながる場合もあるし、何だかよくわからないところにつながっているかもしれない。 そういう創作因果律みたいなものを作れたら面白いかなと思って、いろいろなネタの中からオーディション形式で決めて、まとめたのが今回の本です。 1作目、2作目に比べて、社会人の描写も多く、大人向けの印象を抱きました。 ヨシタケ:確かに、働いている方向けのネタが割と多いかもしれません。今までの2冊は小さい子からお年寄りまでなるべく幅広く扱いたいと思って作ったので、今回も当初はそう思っていたんですけど、自分が気に入るネタは社会人っぽい内容が多くて。結果的に、これはこれでいいかなと思っています。 大人が読んだら「ほんとはウソ」とわかるんだけど、そう言われてみるとそんな気もするよな?みたいな“ちょうどいいおまじない感”って、結構難しくて。この3冊の中で一番、一個一個のネタを考えるのに苦労した本です。 物事って結局自分の気の持ちようじゃないですか? なかなか思い通りにいかないし、ままならないことだらけの中で、ちょっとでも自分の受け取り方や考え方を変えることで、騙し騙しやっていけないだろうか?というのは常日頃考えていること。 それを本の中で「そうらしいよ」とぼやかした形で言われると「そうなのかもな……」と、作った自分自身も騙されちゃうような気がしてくる(笑)。 この本が、そんなふうに物の見方のレパートリーを増やすきっかけになってくれたら面白いし、うれしいです。