仕事中のラジオきっかけに英語学習目覚める 56歳トラック運転手・田中さん、米軍三沢基地内の大学卒業
トラック運転手をしながら英語をこつこつ勉強して13年。青森県弘前市の田中伸和さん(56)が今年夏、授業が全て英語という米軍三沢基地(三沢市)内の総合大学を卒業した。運転の最中にラジオ番組を聴いて力をつけ、英検準1級の資格を取得。オンラインの大学講義を難なく理解できるまで上達した。「次は英検1級合格」と、新たな目標に向かって走り出している。 弘前南高校を卒業後、新潟大学に進学。だが熱を入れたボート部で成績が伸びずに挫折し、不完全燃焼のまま中退した。職を転々とし、30代後半から千葉県などを拠点にしてトラック運転手を始めた。 2011年。東日本大震災が起きた42歳のとき。津波で主な取り引き先だった太平洋沿岸部の仕事がなくなり、故郷弘前市の会社へと拠点を移した。1日往復10時間以上かけ秋田県を経由、宮城県へと物を運ぶ仕事をした。 無類のラジオ好き。高速道路が使えず山中の道を移動する中、電波状況の関係で唯一聴くことができたのがNHKの英語番組だった。物語仕立ての内容を耳にし「次はどんな展開になるんだろう」と興味が湧き、やがて本格的に学ぶように。勉強場所は休憩合間の駐車場で、辞書を片手にパソコンを開き、インターネットを通じ入手した過去問を解いて単語や構文を覚えていった。 「耳」をきっかけに積み重ねた努力は実り、50歳で英検2級、51歳で同準1級に合格。後に三沢基地内の総合大学「メリーランド大学」の存在を知ると、向学心旺盛な田中さんは入学をすぐ決意した。受講したのは、人との対話をテーマにしたコミュニケーション学科。講義は夕方以降が中心で、オンラインで勉強できる利点があった。これまで通り時間を上手にやりくりしながら4年間の大学生活をやり遂げた。 10月に自宅に届いた卒業証書を見て、泣いて喜んだのは一緒に暮らす83歳の母だ。田中さんは「学費を出してもらったのに30年前に大学を中退。苦労と迷惑をかけただけに、恩返しできた」と感無量の表情を浮かべた。 青森県をはじめ、国内には円安を背景に訪日客が多数訪れる。田中さんは培った語学と意思疎通の力を生かし、そうした人たちの支えになりたいという。「生まれ育った弘前市のお役に立てたら」。好きな言葉は歯を食いしばってでも頑張る-という意味の「Bite the bullet」。疲れ知らずのベテランドライバーは、さらなるステップアップを誓った。 ◇ 三沢基地内大学 米軍三沢基地に所属する米軍関係者と、その家族に高等教育の機会を与えるために設置されている大学の総称。総合大学のメリーランド大学とパイロットを養成するエンブリーリドル航空大学の二つがプログラムを提供している。1990年から日本人の受け入れを始め、これまで590人以上が入学。授業は午後6時以降が中心で、卒業まで何年かかっても構わず、自分のペースで履修できるのが特徴。三沢市国際交流課によると、卒業まで5年程度要する事例が多い。