「芸術と生活をつなげる感覚」哲学者・千葉雅也が新刊で伝えたかったメッセージ【著者インタビュー】
『センスの哲学』(文藝春秋)は、気鋭の哲学者・作家の千葉雅也氏によるまったく新しい視点の芸術入門書だ。本書で登場する「センス」と「リズム」の関連とは? 「芸術と生活をつなげる感覚」とは? 著者インタビューをお送りしよう。 【写真】死ぬ瞬間はこんな感じです。死ぬのはこんなに怖い
新しい芸術入門書
―本書はまず、「芸術と生活をつなげる感覚を伝える」ことに主眼があると説明されます。こうした試みはどこからスタートされたのでしょうか。 試みをスタートさせたというよりは、僕が成長する過程で持つようになった芸術への感触を、素直に文字に起こしたという感じですね。もともと芸術を味わうことは、「食べ物を味わう」ようなことだという感覚が自分のなかにあり、その思いをいつかは、さまざまな芸術論や哲学などを援用して文章にしたいと感じていたんです。 ただ、それを20代や30代でやろうとしていたら、恐らくは論文調の硬いものになったでしょうし、より柔らかく昇華させて、いろんな人に届けられるものにしたかった。45歳になって、ようやくその段階になったと感じたので、満を持してこの本を執筆しました。 ―タイトルにある「センス」を考える上で重要になるのが、「リズム」という言葉です。この「リズム」という言葉を通して、絵画や音楽などのいわゆる「芸術」から、部屋の家具や料理などの「生活」が次第につながりを見せていきます。 たとえば、抽象的でよく意味のわからない絵画を見たとしても、その色づかいや構図などになんとなく刺激されることはありますよね。それは料理にしても同じで、「おいしい」と思う時に、そんなにその内実は掘り下げてなくて、口の中に広がる刺激や香りからなんとなく「おいしい」と言っている。絵で言えば色のリズム、料理で言えば熱や硬さ・柔らかさのリズムなどが複雑に絡まり合って、そこに味わいを感じるわけで、これらはイコールでつながると思いました。時間の関わるものもそうで、音楽では演奏のなかに音の強弱やトーンの変化がありますし、「リズム」はいろいろなことに敷衍させて考えることができます。 こうした考え方は、いわゆる「フォーマリズム」につながるものです。芸術を物語とかメッセージ性ではなく、そこにある音や色など、具体的な「形」に着目して考えるという姿勢ですね。