白井元調教師と学ぶ血統学【159】サンデーサイレンス編もついに最終回 「どの馬よりも重要な存在」
サンデーサイレンスに興味を持ってほしい
松浪 というわけで、サンデーサイレンス編も終わりです。最後にひと言をもらえますか? 白井 すごい馬と巡りあった。これが僕には自慢になんねん。競馬の現物を見ているというのはあんまりおらんよ。直線でイージーゴアに差を詰められるけど、コーナーでまた開いて。また直線で詰められて。差されるかなと思ったけど、辛抱しよったもんな。 松浪 実際に走っている姿を近くで見て。それで得た衝撃や感覚というものが先生にとっては重要だったわけで。 白井 競馬関係者として馬を近くでずっと見てきて。いまでもアーモンドアイみたいな馬を見たらさ。折り合いがついて、後ろから行き過ぎるわけでもない。近代的な走り。サンデーのおかげやんな。そう思う。 松浪 サンデーサイレンスの登場によって、育成のレベルも急激に上がったという声もあります。先生もそれは言っていましたね。 白井 あれだけ気性の難しい馬。それはあったと思うね。これまでは血統のいい馬を大事にし過ぎるところがあったし、うまいこといかんことも多かったけど、サンデー産駒が増えたことでな。コントロールせなあかん。そうなるやん。で、相乗効果で。育成に下地ができた。 松浪 お金のほうもしっかりと投資して。 白井 競馬をして賞金が入る。セールをしてガバッとお金が入る。それをちゃんと回した。これも相乗効果。香港とかは生産がないやん。韓国はそれをやりたいみたいやけど、なかなかうまいことはいかないみたいやしな。 松浪 サンデーサイレンスのような歴史を変えるような馬が出てこないと、一気に成長していくことは無理ですもんね。 白井 ホントに一気に上がったもんな。僕はそのタイミングで調教師をして。 松浪 僕はその時期に記者になって。 白井 サンデーを見て「すごいなあ」って思った時代やな(笑い)。何度も言うけど、米国の競馬はスピードだけで行かす馬が多かったんやん。テンからビュンビュン。でも、サンデーはスピードもあるけど、馬がしなやかで道中でタメも利いて。それで押し切る。 松浪 米国のスピードを持ちながら、欧州馬のようなタメを利かせた競馬ができる。 白井 そうそう。近代的な競馬ね。タメてビュッと。僕は人間のマラソンとよく比較するんやけど、昔みたいに競技場のトラックまで引っ張って、そこでかわしたらええやんという時代とちゃう。スピードで先行して、そこでタメておいて。マラソンもそういう時代になってる。 松浪 豊富なスピード、高い心肺機能、道中でタメが利いて、なおかつ闘争心は旺盛。そんな馬が30年以上も前にいた事実に感謝ですね。 白井 牝系の充実とか、そういった側面もあるけど、現在の日本競馬の隆盛はサンデーサイレンスがもたらしたもの。日本競馬にとって、どの馬よりも重要な存在と言っていいと思うし、この連載をきっかけにしてサンデーへの興味を示してくれたら、こんなにうれしいことはないな。 松浪 そうですね。ぜひ、チェックしていただきたいと思います。 ☆白井寿昭(しらい・としあき)1945年生まれ。広島県呉市に生まれ、大阪で育つ。68年に上田武司厩舎の厩務員となり、78年にJRA調教師免許を取得。79年に開業した。95年のオークスをサンデーサイレンス産駒のダンスパートナーで制してGⅠ初勝利。98年日本ダービーなど、GⅠ4勝を挙げたスペシャルウィーク、国内外でGⅠを6勝したアグネスデジタルなどの名馬を管理した。2015年、定年により調教師を引退。現在は競馬評論家として活動している。
松浪 大樹