古今東西、人はなぜ脳を食べてきたのか 古代ローマの「脳スフレ薔薇風味」レシピも紹介
動物の脳を食べたことはあるだろうか。食べたことがない人は、どんな見た目や味を想像するだろうか。古今東西、脳はどのように食されてきたのか、なぜ米国では脳を食べることが毛嫌いされるようになったのかなど、かなりニッチなテーマを、米トラベルメディア「アトラス・オブスキュラ」の食シリーズ編集者が深掘りする。 【画像】食用として売られている子羊の脳 「『ステーキは食べられるけど、牛の脳なんて、これまで聞いたなかでいちばん極端な食べ物だ』と人々が言ってもいまはおかしくありません。でも歴史を通じて、それは問うまでもないことでした。『どの文化で脳が食されたのか?』と問う必要などなかった。誰もがそれを丸ごと食べていたのですから」 そう語るのは、内蔵の料理本を書いたヘルスコーチのアシュリー・バンハウテンだ。 伝統的に、多くの文化で動物の脳はごちそうと考えられてきた。そしてそれは、無駄ゼロの精神からというだけではなかった。濃厚で、脂肪分に富み、繊細な脳の舌ざわりと風味はユニークで、しかも脳はほかの部位と比べて手に入れるのが難しかった。 動物ごとに脳はひとつしか取れないというだけではない。自身のブログ「オファリー・グッド・クッキング(内臓的にいい料理)」で内臓肉の摂取を啓蒙する料理記者のジャニン・ファルジンは言う。 「頭蓋骨を切り開くのがものすごく難しかったのです。われわれの脳がどれほどしっかり守られているかが、よくわかります」
「脳食」古今東西
古代ローマ上流階級の宴で出された手の込んだ料理には、豚また子牛の脳を使った詰め物やスフレもあった。脳を薔薇で風味づけした印象的なレシピもその一例だ(続編で紹介)。 香港の稲郷飲食文化博物館には中国の宮廷での祝宴を再現した模型があるが、そのうちの一皿はキュウリの薄切りのうえに鎮座した生の猿の脳だ。 脳に含まれる栄養素もユニークだ。脳の健康に欠かせない、いくつかの栄養素に富んでいる。ファルジンの説明によれば、脳にはコリン、セリン、ビタミンBが多量に含まれており、オメガ3脂肪酸に関しては、「海産物に含まれるか、脳に含まれるかで、動物の体内で(高濃度に存在する)唯一の場所」だという。 そういうわけで先史時代、海産物をなかなか入手できなかった内陸に住む人々の食生活で、脳は重要な役割を果たしていたと考えられている。 世界のあちこちで、脳を食すありがたみはなお忘れられていない。南アジアでは、イスラム教の犠牲祭(イード・アル・アドハ)の祝宴のために山羊や羊が屠られるが、肉とは別に「マガズ(脳)」の炒め物が用意される。メキシコ人は牛の脳を具にした「タコス・デ・セソス」を食べる。 イタリア人は、コーンミールをまぶした「フリテッレ・ディ・チェルベッロ(子牛の脳のフライ)」を作る。スマトラ島の先住民ミナンカバウ族は、牛の脳をココナッツカレーで煮込んだ「グライ・バナク」という料理で知られる。 中国の「豆腐脳」という料理に脳は使われていないが(滑らかな舌ざわりが名前の由来だ)、豚の脳は四川鍋やその他の中国料理でよく食べられる。
Andrew Coletti