意外と知らない「なぜ人間は1日の3分の1も寝るのか」その決定的な答え
〈経済協力開発機構(OECD)が2021年に公開した、各国の平均睡眠時間の調査結果によると、33ヵ国のうち、日本の平均睡眠時間は最短だった(7時間22分)。 【写真】人間の常識を覆す、「脳がなくても眠る」という衝撃の事実…! 日本では、例えば都心に職場がある人が、郊外に住まいをもっていて、長い時間をかけて通勤している場合も多い。睡眠に費やせる時間は、必然的に短くなりがちだ。日本のビジネスパーソンは、通勤電車で不足した睡眠を補っているのかもしれない。言い換えれば、人間はどんなに忙しくても、ちょっとした隙間時間で眠ろうとする。 そういえば私は幼い頃、あまりに当たり前なことに疑問を抱いていたのを思い出した。眠るのが嫌いだった私は、「睡眠は本当に必要なのか」と疑問に思っていた。夜になるといつも考えていたことがある。もしこのまま眠らずに起き続けたらどうなるのだろう──。〉(『睡眠の起源』より) 私たちはなぜ眠り、起きるのか。長い間、生物は「脳を休めるために眠る」と考えられてきたが、本当なのだろうか。 発売即重版が決まった話題のサイエンスミステリー『睡眠の起源』では、「脳をもたない生物ヒドラも眠る」という新発見、さらには自身の経験と睡眠の生物学史を交えながら「睡眠と意識の謎」に迫っている。
「眠っている」とはどういう状態か
そもそも、眠っているとはどういう状態なのか。 生物は起きている姿ではなく、眠っている姿が「本来の姿」という話をご存知だろうか。 〈生物は眠っている方がデフォルトで、起きている方が特別である。 2021年、ショウジョウバエの睡眠を研究するワシントン大学のポール・ショーは、Science誌の取材に対し、そう語った。彼は2000年に、ショウジョウバエの睡眠をはじめて報告した研究者の一人だ。 私たち哺乳類だけでなく、昆虫であるショウジョウバエから線虫、そして脳をもたないクラゲやヒドラまで、皆眠る。トカゲなどの爬虫類や、ゼブラフィッシュという熱帯魚も眠ることが知られている。どうやらトカゲの睡眠やゼブラフィッシュの睡眠にも、ノンレム睡眠だけでなく、レム睡眠に近い状態があるらしい。トカゲや魚も夢をみているのだろうか。 生き物の分類は、系統樹として表すことができる。ある一つの共通祖先が、枝分かれしていく進化の道筋は、まるで一つの木の根元から、枝が徐々に分岐しているかのようだ。ヒドラとヒトは、約6億年前に分岐したとされている。6億年もの間、違う道を歩んできた。ヒドラが眠るとなると、ヒドラとヒトが分岐する前の共通祖先だって、眠っていたかもしれない。動物はいつから眠るようになったのか? もしかすると、進化の道筋のどこかで睡眠が生じたわけではないかもしれない。生き物はもともと眠っていた。そして、進化の道筋のどこかで、“起きている状態”を進化させたのではないだろうか。ショーが言いたかったのは、そういうことだろう。〉(『睡眠の起源』より)