なぜ、イ・ボミは日本のファンに愛されたのか? 「笑顔」「驚くべきファンサービス」「賞金女王2回の実力」
日本ツアー参戦から13年。ラストゲームを終えたイ・ボミ。2度の賞金女王となった実力はもちろん、笑顔、ファンサービス……彼女の人気は絶大だった。いろいろな壁を越え、多くのものをわたしたちに残してくれたのだ。
イ・ボミが初参戦した2011年には想像もできなかった
「ツアー通算17勝。17年のチャンピオン。怖く見えるけど、めっちゃ優しいお姉さん、上田桃子! あ……、じょじょ(ZOZO)所属、上田桃子!(笑)」 「NOBUTA GROUPマスターズGCレディース」 最終日の1番ホールに姿を見せたイ・ボミ。屈託のない笑顔で始めたスタートコールは、ティーインググラウンドで待つ選手とキャディ、大勢のギャラリーを爆笑の渦に巻き込んだ。 その日本語もちゃめっ気たっぷりで、最終日の張り詰めた緊張感はどこへやら。その場は温かい空気に包まれていた。
初日から同組でイ・ボミと回った上田も大会前から泣いたことを明かし、このコールを聞いて 「ありがとう。かわいかった」 と笑った。 そして、驚いたのは同週の金曜日に行われたイ・ボミの引退セレモニーに50人以上の女子プロ有志が集まったことだった。全員が会場にグッズとして用意されていたピンクの応援Tシャツを着て、涙のお別れをした。 イ・ボミの現場マネジャーの李彩瑛(イ・チェヨン)さんは 「ボミさんとちゃんと話したことがない選手もたくさんいて、それでもセレモニーに参加してくれていたんです」 と目を丸くしていた。 韓国人選手が日本でこんなにも愛されて引退を迎えるとは、イ・ボミが初参戦した2011年には想像もできなかったことだ。目の前に広がる“不思議”な光景を見ながら、日本の女子ゴルフ界に大きな影響を与えた選手なのだと、改めて感じずにはいられなかった。
どうすれば日本のファンからたくさんの拍手がもらえるのか
「イ・ボミって知ってる? 韓国ツアーの賞金女王なんだよね? 実力はどうなのかな」 当時、専門誌記者だった筆者も2011年から日本ツアーにやってきた彼女のことについて聞かれてもまったくピンとこなかった。 小さくてかわいらしい雰囲気を持った選手で、愛称は「スマイル・キャンディ」と笑顔が特徴の選手とは知っていたが、それよりも日本ツアーでは、来日1年目(2010年)で韓国人選手として初めて賞金女王になったアン・ソンジュの強さが個人的には気になっていた。 アンは翌年も賞金女王のタイトルを奪取。2年連続マネークイーンの偉業にもスポーツ紙の反応は鈍く、扱いは決して大きくはなかったと記憶している。それはやはり「韓国人選手」というのが理由だろう。 もちろんアンも日本語がうまく、メディアのウケは良かったが、各社からすれば日本のスター選手を大きく取り扱いたいという本音が紙面から感じられたものだった。 それに当時、李知姫、全美貞、申ジエといった実力のある韓国勢が上位を席巻。シードが与えられる賞金ランキング50位以内の韓国選手の数は、10年14人、11年18人。およそ3分の1を占め、日本ツアーを韓国選手が牛耳る状態に、ゴルフファンは辟易するような雰囲気さえ漂っていた。 それを一新したのがイ・ボミだった。1年目は日韓ツアーを行き来しながらも賞金シードを獲得し、真価を発揮したのは2年目の12年シーズン。初優勝を含む年間3勝で賞金ランキング2位となり、その認知度は一気に高まった。