「チベットのために何かしたい」一般女性初の犠牲者となった娘への母の祈り
中国・甘粛省南部のある町で一人のチベット人の母親を訪ねた。彼女の娘、チェリン・キは、2012年に焼身して命を絶った。まだ19歳の学生だった時である。中国に対する抗議の焼身自殺を行うのは僧侶が多いが、チェリン・キは尼僧以外で初めての一般女性の犠牲者となった。
学校の寄宿舎から休日で自宅に戻っていたチェリン・キは、家での最後の晩、母親の横に寝ながら、珍しく朝まで話し続けた。 「父親からもらったお金で服を買って結婚しようかな、でも結婚したらもう会えないかも」 学校に行く途中、果物市場の奥にある公衆トイレの中でガソリンをかぶり、自らに火をつけた。 「チベットのために何かしたい。ただ生きていても意味はない」 チェリン・キは、そんなことを度々漏らしていたという。 「今頃はどこかで転生して、元気にしていると思う……。 だからもう悲しくはない」 そんな言葉とは裏腹に、母親の眼からは堪えきれずに涙が流れた。例え心の拠り所となる信仰があったとしても、子を失った親の悲しみを埋められるものではない、そう思った。 (2015年10月撮影)