動脈硬化改善も 注目されるストレッチの健康効果
近年の研究によって、スポーツ選手の柔軟性アップだけでなく、健康への効果も期待されるようになっているストレッチ。今回は立命館大学で運動生理・生化学を研究する家光素行教授に最新情報を教えていただきます。 【動画】全身が整うハムストリングスのストレッチ
――専門店の増加など、ストレッチが一般にも広く浸透してきています。これはスポーツだけでなく、健康への効果が期待されているからと考えていいのでしょうか。 「かつての『体の柔軟性を高める』というイメージだけでなく、いろいろな健康効果があるということが徐々に浸透してきているからだと思いますね。実際、ストレッチは柔軟性アップによるスポーツでのケガ防止、競技パフォーマンス向上はもちろんですが、一般の方でも日常的に取り組めば、筋肉・関節・腱などの柔軟性が高まり、加齢に伴うケガの予防につながります。また、血行促進やリラクゼーションのような心身の健康にもプラスの効果も期待できます。とくに最近の研究では、動脈硬化の予防や冷え性の改善などに効果があることがわかってきています」 ――そんなにいろいろな効果があるんですね。 「仕事をしている方にとって重要なのは、疲労回復効果ではないでしょうか。末梢に疲労物質(代謝産物)が溜まってしまうと、体は疲れやすくなってしまいます。ストレッチには血流を促進してそれらを循環させる効果があるので、疲労の予防、体のリフレッシュにもつながると考えられます」 ――体の疲れが取れると、心もリラックスしそうですね。 「そうですね。体がリラックスすると交感神経の興奮が収まり、副交感神経が優位になります。その結果、脳もリラックスしてストレス解消、気分転換、入眠効果などにもつながっていくと考えられます」
――そういう情報が発信されるようになったことで、たしかに以前よりもストレッチが身近になっている印象はあります。 「多彩な効果をみなさんが実感する機会が増えているのは非常にいいことだと思います。ただ、ストレッチの具体的なやり方は意外と正しく知られていない面もありますし、自己流でやってもうまくいかない場合もあると思います。そういう意味でもストレッチについてより深く学んでいくのも大切だと思います」 ――形だけ真似れば効果が出るというものでもないんですね。 「効果ゼロとは言いませんが、正しい姿勢で正しくストレッチしないと効果は出にくいと思います。専門店やトレーナーが正しいやり方を理解して、顧客のニーズに沿って行なっているのであれば素晴らしいと思います。ただ、100%そうなっていないのであれば、正しいストレッチを伝えていく啓蒙活動も重要になってくると思います。ストレッチさえやれば効果が得られると思ってしまうと、希望通りにならないこともあってもったいないと思いますから」 ――努力が報われないのは、もったいないですね。 「最近はストレッチに関するいろいろな書籍も出ていますし、情報を得るチャンスはたくさんあると思います。しかし、必ずしも正しい情報ばかりとは限らないので、注意は必要だと思います。ストレッチは場所を選ばず、誰でも気軽に始められる運動です。若い方には将来の健康、中高年の方なら徐々にリスクが高まる動脈硬化をはじめとした生活習慣病の予防の効果も見込めるので、ぜひ性別・年代を問わず多くの方に正しいストレッチを実践していただきたいですね」 (次回は動脈硬化とストレッチの関係性について解説します)
家光素行(いえみつ・もとゆき) 立命館大学スポーツ健康科学部スポーツ健康科学科教授。2003 年、筑波大学大学院医学研究科修了(博士:医学)。2004年、筑波大学大学院 人間総合科学研究科助手国立健康・栄養研究所客員研究員などを経て、2014年より現職。日本体力医学会監事、日本運動生理学会評議員などを務め、心血管疾患、糖尿病、肥満などにおける運動療法と運動効果の機序解明について多くの論文を報告している。 ◆本記事は日本ストレッチング協会 協会誌「CREATIVE STRETCHING Vol.65」で紹介された内容を再編集したものです。
取材・構成/森本雄大