目黒蓮、棒立ちのしぐさが見事。人に合わせてしまうタイプの主人公は一番何もできない/『海のはじまり』
「僕のほうが悲しい自信があります」津野くんのせいいっぱいの意地
別の日は、夏が微妙に左右ふぞろいながら海に三つ編みをして、図書館へ出かける。残念ながら休館日だったが、海が津野(池松壮亮)を呼び出し、特別に開けてもらえた。 休日の勤務先を貸切状態で楽しむといえば、池松壮亮主演映画『ちょっと思い出しただけ』を思い出す。池松演じる主人公が水族館でバイトをしていて、休日、水族館に忍び込み、恋人(伊藤沙莉)とはしゃぐエピソードがあるのだ。 『海のはじまり』でも池松演じる津野は、一度、休日に図書館に入ってみたかったと言って、海以上にはしゃぐ。初回からずっと浮かない顔ばかりしていた津野くんが大声を出して明るく笑いながら走りまわり、ぐいっと海を抱き上げる。この一連の場面は最高に解放感にあふれていた。 津野は、やってみたかったという、昼間に図書館でビールを飲むことを、夏につきあってもらう。そこで彼は「比べるもんじゃないとかよく言いますけど、月岡さんより僕のほうが悲しい自信があります」とマウントをとる。 それから部屋のソファでみつけた髪ゴムを水季につける。せっかく夏が結った三つ編みをほどいて、ひとつ結びに。 このとき海が少し夏を気遣うのと、三つ編みのおかげで髪にふわふわとウエーブがかっていい感じになっているところには救いがあるが、手際よく津野が髪をほどいてほぐす手つきを見る夏の顔はせつなそうだ。まるで「月岡より津野のほうが髪を結う自信があります」を見せつけられたように。 でも法的にも血縁的にも関係性の弱い津野くんのせいいっぱいの意地だからここは津野くんのやりたいようにやらせてあげたい。
目黒蓮、人に合わせてしまうタイプの夏の棒立ちの仕草が見事
みんな海を甘やかしすぎかと思えるほど慈しんでいる物語かと思いきや、実は夏が一番何もできなくて、みんなが気を使って彼の居場所を作っているような物語でもある。「夏くんが三つ編みしてくれたからふわふわ」「またやってね」と海は気遣っているわけではなく本心からそう言うのだろう。 第6話は津野の素直な面が出たのと同時に、夏の動きの悪さが際立ってしまう。夏はとても不器用な人で仕方ないのだが、食事のときも、髪を結うときも、図書館でも、ことごとく自分の何もできなさを突きつけられて、途方にくれて見える。 目黒蓮はこのなにもかも手をこまねいてしまう感じがよい。実際の目黒はもっと動きのいい人であろう。にもかかわらず、こんなにも何もできない、棒立ちの仕草が見事だし、逆に親しみがわく。気持ちが一歩遅れがちな人はいるものだから。 人に合わせてしまうタイプで、自分で決めることが苦手。待ってないで自分で動けと職場でもよく言われるし、実際、ある程度やることを決められているほうが楽。という夏のような人はけっこういるのではないだろうか。