「どれが息子か分からない」 シリアの遺体安置所に渦巻く号泣と怒り
内戦下のシリアでアサド政権が崩壊して、15日で1週間がたった。長期独裁体制のもとで行方不明になった市民は数知れず、刑務所や病院では行方不明の親族らを探す人々の姿が絶えない。反体制派は暫定首相を任命するなど徐々に権力移行を進めているが、13年にわたる内戦が刻んだ傷は深い。分断された国と人々の和解が大きな課題となる。 【現地の写真】遺体安置所で涙を流す人たち 首都ダマスカス市内の病院の遺体安置所は14日、泣き叫ぶ人たちで埋め尽くされていた。この病院にはアサド政権崩壊後、郊外のサイドナヤ刑務所で見つかった17人の遺体が運び込まれた。それ以降、行方不明の親族らを探す人たちが押し寄せている。 床に横たえられた遺体はいずれも黒ずみ、骨が浮き出ていた。苦悶(くもん)の表情からは、生前の姿は想像しがたい。「どれが息子だか分からないじゃないか」。床に並ぶ遺体を見た女性の叫び声が響いた。 この女性はダマスカスに住むワッファ・ウエイダさん(65)で、2012年に18歳で拘束された息子を探していた。反体制派が首都を制圧した8日以降、市内各地の刑務所や病院を訪ね歩いているが、消息は全く分からないという。「どこに行ったのか、誰も知らない。アサドを裁判にかけ、責任を取らせるべきだ」 遺体安置所では人々が競うように、積年の怒りを口にした。中には、アサド前大統領と同じイスラム教少数派アラウィ派が政権支持層だったとされることから「アラウィ派を殺せ」と口走る人もいた。旧政権の市民弾圧と内戦による遺恨の深さを感じさせた。 反体制派を主導する「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)は、繰り返しシリア国内の「融和」を訴え、少数派の権利を保障する方針を打ち出している。だが、ネット交流サービス(SNS)では、反体制派がアラウィ派を「処刑」したとされる動画も出回っており、不安も渦巻く。アラウィ派の男性(21)は「アサド政権が倒れてうれしいが、新政権も少し怖い」と打ち明けた。【ダマスカス金子淳】