【増える高齢女性受刑者】1人あたりの生活費・年間約80万円 …「ここまでするの?」“福祉施設”と化す〈刑務所〉の実態
男性受刑者が著しく減少する一方で、女性受刑者は高止まり傾向にあり、中でも「65歳以上の女性」の割合は30余年で10倍と激増。ここ30年間で「犯罪者」のイメージは様変わりしました。高齢の女性受刑者が増えるということは、認知症の介護を必要とする受刑者が増えることも意味します。刑務所が抱える「刑の執行」と「ケア」のジレンマとは? ジャーナリスト・猪熊律子氏による迫真のルポ『塀の中のおばあさん 女性刑務所、刑罰とケアの狭間で』(KADOKAWA)より一部を抜粋し、見ていきましょう。
困窮や孤独に追われて刑務所へ 「塀の外」にある“生きづらさ”
高齢化や長寿化の状況について触れておきたい。 国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、高齢者人口(65歳以上)のピークは2042年で、3935万2000人。高齢化率(全人口に占める65歳以上の割合)は、2022年時点の29%から、2060年代には38%まで上昇する見込みだ。 長寿化も進んでいて、2021年の平均寿命は男性が81.47歳、女性が87.57歳。男性の平均寿命は2050年には84歳を超え、女性の平均寿命は2045年には90歳を超えると推計されている。また、2020年に65歳の男性の37%、女性の62%が、90歳まで生きると見込まれている。 100歳以上の長寿者も増えている。2022年は9万526人で、初めて9万人を超えた。女性が89%を占める。国の推計では、ピーク時には100歳以上(男女計)が71万7000人(2074年)と、現在の徳島県の人口とほぼ同じ程度にまで増えるというから驚く。 「おばあさんの世紀」という言葉をご存じだろうか。2045年には、総人口に占める65歳以上の女性の割合が2割を超すと推計されている。つまり、65歳以上の「おばあさん」が、日本中にたくさんいる時代が来ることを指した言葉だ。 名付け親の1人、評論家でNPO法人「高齢社会をよくする女性の会」理事長の樋口恵子(ひぐちけいこ)さんは、「全人口の2割といえば、社会に影響を与え得る相当なボリュームといえる。その時代に、自立して生き生きしたおばあさん(HB=ハッピーばあさん)がたくさんいるか、貧しくて孤独なおばあさん(BB=貧乏ばあさん)がたくさんいるかで、日本社会の様相は随分違ってくる。BBからHBを増やす社会にすることが必要だ」と主張する。 確かに、低賃金・低年金になりがちな女性が「HB」となる仕組みを早くつくらないと、困窮や孤独から刑務所に居場所を求める「BB」が跡を絶たないことにもなりかねない。