「吉永小百合さんのシルクの下着がぼろぼろに」 樹木希林と温泉宿ではしゃいだ夜…撮影地のスナックママが追憶
「下着がぼろぼろに」
映画の冒頭、スキー場で着物姿の芸者たちがスキーをする場面がある。 「撮影日は寒く、希林さんは足袋にカイロを入れていたわ。着物の下に洋服を着て、はいているパッチ(ももひき)を、わざわざ私に見せてくれました。そのパッチは男性もので、『社会の窓』を縫ったんだって(笑)」(同) 湯村温泉の住民は、源泉「荒湯(あらゆ)」から湧き出る温泉で洗濯をする。撮影の合間にその様子を見ていた樹木と吉永は「荒湯で洗濯をしてみたい」と言い始めた、と話す佐智子ママによると、 「希林さんが『(娘の)也哉子ちゃんのズック(靴)を洗いたい』とおっしゃるんで、夜中なら誰もいないと思って、スナックの営業時間を終えて、零時半くらいから三人で洗濯しに行きました。希林さんにはブラシを貸してあげたんですよ。小百合さんも岩の上でごしごし洗っておられたんですが、しばらくして『こんなにぼろぼろになったわ~』って、シルクの下着を見せてくださったの。希林さんと私は顔を見合わせて大笑い。三人できゃっきゃっと大騒ぎ。滞在は30分くらいやったかな……、『荒湯』は地熱で温かいから、深夜でも全然寒くないからね」 温泉はいつだって、人の心を開かせる。
山崎まゆみ(やまざきまゆみ) 温泉エッセイスト。1970年新潟県生まれ。跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学)。内閣府「クールジャパン・アカデミアフォーラム」や国交省、観光庁の観光政策会議に有識者として参画。9月6日『ひとり温泉 おいしいごはん』(河出文庫)発売。 「週刊新潮」2024年8月15・22日号 掲載
新潮社