年収の壁以前にある 「強固な壁」
調査機関「しゅふJOB総研」(東京都新宿区)は「もし家庭の制約がない場合、主婦層が最も望む雇用形態は」という調査(※)を発表しました。研究顧問として調査を行った川上敬太郎さんに聞きました。【聞き手・須藤孝】 【写真】通勤する会社員 ◇ ◇ ◇ ◇ ――「時間制約の壁」という言葉を使われています。 ◆家事でも仕事でも、片方の役割がゼロであったり、ゼロではなくても同じ時間でなかったりすれば、結局はお互いがお互いを縛っていることになります。 たとえば仕事を100、家庭を100とした場合、専業主婦家庭は男性が仕事100、妻が家庭100で、夫婦合わせて200です。 ところが共働きが多くなった今はどうなっているかというと、夫の仕事100も、妻の家庭100も変わらないまま、妻はパートで働き、50の仕事が妻に乗っています。夫の仕事100、妻が家庭と仕事で150、夫婦で計250が今のモデルです。 夫も妻も75ずつ仕事をして、家庭を50ずつにすれば2人とも125になります。 単純に仕事を75に減らすのは難しいでしょうから、生産性を上げる必要があります。1日8時間働いて生活できる状態から、6時間で同じだけ稼げるようにする必要が出てきます。 ◇みんな大変 ――125にしても以前より負担が大きい問題はどうでしょうか。 ◆今まで100で暮らせていたのに、125にしないと暮らせなくなっていることが問題です。稼ぎたい人が125を選択するのはよいのですが、それは100でも生活できる状態があることが前提です。 ステルス負担と言っていますが、みんなが気がつかないうちに負担が増えているのです。 政府は、今のままで妻の就業時間を延ばし、フルタイム、つまり仕事を100に近づけることを考えているようにも見えます。しかし、それでは、妻が家庭の100と合わせて合計200を1人で担うことになります。それはあんまりです。 仕事も100、家庭も100の完璧な方はいます。できる人はそれでもよいのですが、一部の人です。政策の目標にしてはいけません。 ――みな大変になっているのですね。 ◆私はいま、主夫ですが、ここ数年、昼間にスーパーで買い物をしている男性が増えました。変わってきています。しかし、仕事は減っていません。ならば、夫も無理をしているのです。 妻は以前から無理をしていたわけですが、夫が無理をするようになった分、妻の部分だけを見れば改善には向かっているのでしょう。 しかしそれは、夫が無理をして、妻に乗っていた負担を自分に乗せる努力をしているからです。 妻の負担を減らすことになっても、夫婦の合計で見れば、負担は減っていません。私からみれば解決ではありません。 ◇年収の壁はあとからできた ――この観点から年収の壁をみると、見方が変わってきます ◆今の年収の壁を巡る議論は、順序が逆です。年収の壁があるから就労調整をするのではありません。 時間制約の壁があって働けないから、それにあわせて働くことを控えているのです。その実態にあわせて後から作られた制度が年収の壁と呼ばれているのです。 制度上の年収の壁だけをなくせば解決するとするのは誤りです。岸田政権での年収の壁対策はやってよかったし、実際に救われた人がいます。しかし、あの対策で年収の壁問題が解決すると思われるのは困ります。(政治プレミア) ※ “年収の壁”よりも強固な壁 もし家庭の制約がない場合、主婦層が最も望む雇用形態は? 1位「フルタイム正社員」43.3%